負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の好物は絶望「眼には眼を」

いったいこの世にカタルシスをもたらすほどの絶望感があるなど想像できるだろうか

(評価 85点)

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この映画の存在を知ったのは、古本屋で入手した古ぼけたキネマ旬報ベストテンの特集号。数行の簡単な紹介文と、この映画のタイトルに妙にイマジネーションを喚起され、ずっと見たいと思い続けていた。

 念願はとあるテレビの深夜帯の映画劇場でかなえられた。

導入部から引きずり込まれ、たちまち釘付けになった。そして、何といっても有名な、救いのかけらもない絶望のラスト。

 見終わった後、悪夢から覚めたような感覚に見舞われたのをおぼえている。以来、これを録画したテープを見続けた。性懲りもなく、画面に釘付けにされる感覚をまた味わいたくなるのと、いつしかこのラストの絶望感が一種のエクスタシーになっていたからだ。それほどこの絶望感は強烈なのだ。

 始まりは何気ない。中東に勤務する医師が非番の夜、一人の男の訪問を受ける。男の妻の具合が悪いという。その時医師はぶっ通しの勤務明け、診療器具の持ち合わせもない。医師は電話を介し、男に近くにある自分の勤務する病院に行くよう申し伝える。発端は本当にただ、それだけなのだ。

 しかし、翌朝、医師は出勤した病院で男の妻が死んだことを知らされる。

 そこから、その男の医師に対する復讐が始まる。最初はストーカーまがい。しかし、やがて医師は男の奸計にはまり砂漠へと誘い込まれる。そして最後のデスゲームが始まる。

 そこからはもう目が離せなくなる。ノンストップで究極のエンディングまで引きずり込まれる。誰もが砂漠に放り込まれ、途方に暮れ、ひりつくのどの渇きを追体験させられる。

 怖いのは医師に落ち度など何もないこと。医師の側に何らかのミスがあった、怠慢な点があった、そんなことなど微塵もないこ。この医師は、デスゲームのワナに墜ちる時も、離村に急病の患者がいることを聞き、車で駆け付けた善良な医者なのだ。だからこそ怖い。

 朽ち果てたロバの死骸がムクムクと動き出す強烈なショックシーン。板一枚だけの簡素なロープウェイで目もくらむ絶壁をわたる恐怖。生き残りをかけて医師と男の上下関係がコロコロ逆転するスリルを経て、最後に医師が、男が自分も砂漠で果てるつもりだと明かされるたとえようもない衝撃。

 この映画。テープも散失してもう見れないとあきらめていた。ところがTSUTAYAレーベルでDVDがリリースされ、ようやく再会がかない、かじりつくようにして見たものです。そして、現在、くだんの絶望のラストの悦楽にまた無事に浸ることができている。

 絶望などしたことがないという絶望初級者の人も、負け犬のように絶望といつも隣り合わせで絶望には慣れっこの上級者の人も、この絶望は一見の価値ありなのだ