負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬の血も凍る「冷血」

この圧倒的な釘付け感は実録映画ジャンルの金字塔かもしれない

(評価 85点)

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 もう二十年も前、東京世田谷区のある一軒の住宅で小さな子供を含む一家全員が殺される事件が起きた。そう、あの日本の犯罪史上でも有名な『世田谷一家殺害事件』である。この事件が起きたのは大晦日を控えた12月30日の深夜。年の瀬になるとこの事件を思い出す、という人も多いのではなかろうか。今だに未解決のこの事件、現実の犯行現場で、一体どんな所業が行なわれていたのか、決して伺い知れないその暗黒の深淵がもしも目の前に現出したら、誰もがそれを覗き見したくなる誘惑にかられてしまうのではないだろうか。

 しかし、現実にその暗黒の深淵を目の当たりにさせてくれるような映画に出合ってしまったら、人間はどうすればいいのだろう?

 1959年アメリカのカンザスで実際に発生した一家殺害事件を作家トルーマン・カポーティルポルタージュ形式で小説化し、大ベストセラーとなった本の映画化である本作の存在自体は昔から知っていた。だが、本作、テレビ放送は勿論、ビデオでもソフト化されず、まったくの幻同然の作品だった。

 しかし。2005年、製作された伝記映画「カポーティ」のDVDリリースのタイアップでようやく本作のDVDが発売された。長年、見たい映画ではあったが、1967年のモノクロ映画。ソフト化もロクにされていない作品となれば、ただノンフィクション調のドキュメンタリー形式だけが取り柄の作品だろうと、さしたる期待もせずに見始めた・・・のが運の尽き!その後に嫌というほど味合されたのは2時間14分にもわたる、まさにこれ以上はないという程の画面に釘付けされるような圧倒的な感覚だった。

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 映画は、実行犯となる二人の若者の行動をパラレルに描くことから始まる。長距離バスに乗るペリー(ロバート・ブレイク)と田舎町で父親と共に暮らすディック(スコット・ウィルソン)の二人だ。冒頭の鮮烈なモノクロ映像とクインシー・ジョーンズの秀逸な音楽とのコラボにまずは引き込まれる。

 すぐに合流した二人は、カンザスのとある農場主の一家の家を目指す。だが戦慄を覚えるのが、その道程の二人が、何だかピクニックにでも行くかのように無邪気なことだ。映画を見ている人間はいずれ二人が実際に発生した事件通りに、一家を皆殺しにすることを知っている。一目瞭然で伺い知れるのは、この二人が完全に社会のシステムから逸脱した落ちこぼれであること。しかし、この二人にはニュー・シネマのアウトローたちのようにわずかなりとも好感を抱ける余地など皆無だ。ここで抱くのは、完全にネジが外れた人間と接してしまったかのような恐怖だ。

 映画は、犯行が行なわれるゼロ時間に向けて時系列に刻一刻と近付いていく。だが、この映画がもっともスゴいところは、二人が深夜、農場に到着し、一家の家に踏み込むところで一気に時制が、犯行後にジャンプする。初見の時は、ここでハっとさせられた。そして映画は、メディアが報じる二人が犯した犯行のニュースを聞きながら、犯行前と同じ無邪気さで旅を続ける二人を描く。これが肩透かしににならずに、逆にドラマティックなテンションを高める効果たらしめているところがスゴイ。

 後半の旅で、ボトルを集めてヒッチハイクする老人と少年を拾い、人間的な側面すら見せ始めていた二人は、夢のベガスであっけなく逮捕される。しかし、本作のテンションは片時もゆるまることはない。ここで描かれる、捜査当局により隔離された二人が別々に尋問され、自白に至るまでの過程で、さらにテンションはヒートアップしていくのだ。

 そして、二人の死刑が確定した時、最後、いよいよその時系列が犯行時のゼロ時間となってその犯行の実態が明かされる。すでにこの時点でおそらく大半の人が目をそむけたくなるほど、この映画のテンション効果にしてやられているのではなかろうか。

 でもこの映画は容赦などしない、タイトル通りの冷徹きわまりない描写で淡々とその犯行を描いていく。もうここまできたら誰も目を背けることなどできない、目の前に差し出される暗黒の深淵をまざまざと見つめるしかない。でも同時に気付かされもするはず、直接的な残酷描写がないのにどうしてこうまで慄然とするのか、そう、それこそが監督のリチャード・ブルックスの演出、長大なノン・フィクションを原作とする卓抜な脚色、コンラッド・ホールのハイコントラストのモノクロ撮影、クインシー・ジョーンズの音楽のアンサンブル、つまりは映画のマジックであることを。

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 とはいえ、エンディングは、ペリーの恐怖の息遣いの音とその絞首刑で終わる、とことんの暗黒だ。これ以上の暗さはないほど暗い。ダウンな精神状態の時は見ない方が無難かもしれない。しかし、この圧倒的な画面への釘付け感は半端ない。この釘付け感を味わいたくて、まるでジャンキーのように本作のDVDに手が伸びてしまうのもまた事実。

まあ、家庭で人生の暗黒の深淵を垣間見ることができるなら、無害ということなのかもしれないのですが・・