負け犬のクリスマスはアナログ電話とオリヴィア・ハッセーちゃんの凛とした美貌で肝試し!「暗闇にベルが鳴る」
ジングルベルの鈴が鳴るクリスマスの夜をアナログ電話のけたたましいベルの音がつんざく時、ひと際際立つのはオリヴィア・ハッセーちゃんの美貌だった。
(評価 72点)
クリスマスから年末にかけてのお楽しみと言えば、何と言っても正月映画。70年代半ばの負け犬的映画ヒストリーの黄金期には、お正月目当てに大作群がこぞって公開されていた。時に1975年のお正月と言えば、何と言ってもあのスピルバーグの「JAWS」。ドアも閉め切れないほど膨れ上がった超満員の映画館で通路の階段に腰かけその「JAWS」が映し出されるスクリーンを身じろぎもせず見つめたのが、映画フリークとしての負け犬の紛れもない原体験だった。
だが、映画はまたビジネス。そんな大作に便乗するかのようにその時期、決まってB級映画が付け合わせのように公開されるのも常だった。本作「暗闇にベルが鳴る」もそうした映画の一本で、当時、人気のあったオリヴィア・ハッセーが主役だったことも相まって日本でもスマッシュ・ヒットしていた記憶がある。
そんな本作は、カナダを拠点に活躍し、アイデアを駆使した作品でキャリアを築いた才人ボブ・クラーク監督による、今日のスラッシャー映画のパイオニア的作品。
そもそも本作、米国やカナダでは有名なある都市伝説をベースに作られている。その簡潔な都市伝説のストーリーを話してしまうとずばりネタばらしになってしまうので言えないが、ボブ・クラークはその都市伝説に、舞台を学生寮にする以外の無駄な装飾を加えることも一切なく、シンプルにまとめている点が、本作が今見てもタイトなスラッシャーホラーの良作になっているゆえんと言える。
俳優陣も魅力的。主演のジェス役のオリヴィア・ハッセーをはじめ、ジェスの友人、バーバラにマーゴット・キダー。事件を捜査するフラー警部にジョン・サクソンと、セブンティーズ映画に欠かせないメンツが嬉しい。
本作、スラッシャー映画の先駆けだけあって、冒頭の殺人鬼らしき人物が学生寮に忍び込む主観ショットから始まり、順番に女子学生たちが血祭りに挙げられていく構成そのものもあいまって、体裁はいたってシンプル。犯人をめぐる、ジェスの恋人ピーター役のキア・デュリアの如何にもエキセントリックなルックスを利用したひねりも実にあっさりとしている。でも、だからこそグリム童話を思わせるような不気味なバッド・エンディングが生かされていて、クリスマスの夜に安心して見ることが出来るナイスなホラー映画になっている。
安心してとは言いつつ、クライマックスにかけてテンションが加速していくスリルはハッセーちゃんの美貌もあいまって、今見ても中々なもの、その後、何本もリメイク作が作られたのも頷ける出来映えと言っていい。
今ではお目にかかることすら出来ないあの回転式のアナログ電話。ホラー映画の定石をたしなみつつ、あのけたたましいベルの音のノスタルジーに浸りたくなったら見る映画としてはピッタリかもしれない。
ところで、本作でもまるでお人形さんのように可愛らしいオリヴィア・ハッセーだけど、歌手の布施明と結婚していたことを覚えている人も結構いるのではないでしょうか。
オリヴィア・ハッセーといえば、当時、愛読していた「ロードショー」などの雑誌のグラビアの常連のような大スター。映画雑誌のグラビアを飾るといえば、子供にとってすれば、もう異次元の別世界の人物。そんなお人形さんのようなスターが、その当時でも早や、若いとは言えなかった、TVでも見慣れていた歌手の布施明と結婚した時の衝撃たるや、夜中にかかってくるアナログ電話のベルの音に勝る衝撃だった。
当然、その結婚生活も短命には終わったわけだけど、あれはいったい何だったんだ、と今でも首を捻る負け犬の人生の、束の間の衝撃のイベントは、もはや今ではそれ自体、都市伝説と言ってもいい珍事なのかもしれませんね~