負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

木枯し紋次郎 第三話「峠に哭いた甲州路」 初回放送日1972年1月15日


紋次郎名物の早食いは飢えた70年代の空気の象徴だったのか

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<かつて村の娘を殺めたことから追放したはずの源太が復讐のために舞いもどって来る。その噂に怯える村に足を踏み入れる紋次郎。そこで紋次郎が出合ったのは片足の少女、お妙だった。そこへ村人たちに片腕まで奪われ復讐に燃える源太が仲間を引き連れ襲撃するが、不自由な身体ながらもけなげに生きるお妙を気に掛ける紋次郎は村へと引き返す、しかし、お妙の口から告白されたのは意外な事実だった・・>

 

そもそもが市川崑劇場と銘打って始まった紋次郎。この伝説といってもいいシリーズが生まれた最大の功労者が市川崑監督であることに誰も異論はないはずだ。

その崑監督のいわばパイロットエピソード三部作の最終作ともいえるのが本作(実際は第一シリーズの最終話となる第18話「流れ船は帰らず」が事実上、崑監督が手掛けた最終作となった)。

それもあって本作は紋次郎の持ち味、70年代テイストがギュッと凝縮された傑作だ。

 冒頭、あの紋次郎名物のメシの早喰いが出てくる。メニューは味噌増水とメザシ、とろろ、そしてタクアン二切れだけの質素なメシ。それなのに紋次郎が食えば何とうまそうなことか。いわば紋次郎版の「孤独のグルメ」なのだ。でも、グルメなどという上品なものではない。紋次郎がなるべくして振舞ったそのパフォーマンスには、生きることは食うことなり。まさに何処かすみずみまで飢餓感に満ちていた70年代の空気までが体現されていた。

 しかし、「孤独のグルメ」といいつつ、このシーンにはこのエピソードのキーとなる人物が差し向いにいる。それを演じたのがこれまたこの世代のエンブレムともいうべき原田芳雄だ。

 原田一党が引き連れた野良犬のような一団の復讐劇となる本作のカギを握る紅一点の足の不自由な少女を演ずるのが黒沢のり子、もうこれだけでもアングラなATGの映画の匂いが沸き立ってくる。

 そんなとの触れ合いも束の間、一味がいよいよ開始した村への襲撃のさ中、紋次郎が抜き放った長脇差によって泥だらけの絶望的な闘争が開始される。このゲリラ的な戦いを駆使したリアルなシーン。初めて見たときどれほどインパクトがあったことか。そしてが打ち明けた悲しい秘密によって紋次郎と原田との一騎打ちが始まる。

 「峠に哭いた~」のタイトル通り、ラストの哀切さは全シリーズ随一ともいえるほどだ。しかし、そこで紋次郎がトレードマークの楊枝で見せた、少女の恥じらいへの優しさで締めくくられる紋次郎のプロフィールとラストショットの美しさには何度見てもため息ものだ。

 この三部作で、今までにない全く新たなものを見せつけられ、釘付けとなったのは自分だけではない。まさにその時代の日本人全員だったのかもしれない。

 その証拠に、ここから伝説が始まったのだから

 ちなみにラストで繰り広げられる原田芳雄中村敦夫の一騎打ちの対決は、紋次郎シリーズとは別物の「御子神の丈吉」や未公開となった中村敦夫の幻の劇場映画初主演作となった「夕映えに明日は消えた」などの映画にも引き継がれたというから、こちらも是非、見たいもの