負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のこれぞアラ還オヤジの容赦なきお祭りマンボ「ジョン・ウィック:コンセクエンス」

アラフォーもアラフィフももう古い、これからはアラウンド還暦のアラ還オヤジの時代だ!そのアラ還キアヌが叩きまくる暴れ太鼓の音色に酔いしれろ!

(評価 84点)

 世の中にはつべこべ言っても仕方がない映画というものがあるものです。だとしたら本作こそまさにそんな映画。ひたすら暴れん坊の主人公が縦横無尽に暴れまわる、その暴れっぷりをただ呆然と見つめ、見終えた後は満腹といわんばかりに腹をさする。ただ、その暴れん坊が本作の場合、キアヌ・リーブスでそのキアヌがそろそろ還暦目前というわけで、あんぐりと開ける口の大きさも半端ない。

 亡き妻からの贈り物の犬を殺された引退したはずの殺し屋が、その復讐相手のロシアンマフィアに報復する、その単純でシンプルなプロットが逆に新鮮だった小ぶりな良作として始まりを告げた「ジョン・ウィック」。その「ジョン・ウィック」がもっともユニークなのは、殺し屋映画にあった中途半端なリアリティなどかなぐり捨てて、殺し屋フアンタジーともいうべき世界観にベクトルを思い切り振り切ったこと。

 一作目、現役復帰したジョンが深夜、自宅に押し入って来たロシアンマフィアの刺客たちを皆殺しにする。すると、たちまち特殊清掃業者みたいな連中たちが現れ、粛々と死体を始末し何事もなかったかのように去っていく。そのシュールでオフビートなテイストにちょっと驚いた人も多かったのではないでしょうか。

 そして、そのシュールなテイストが殺し屋たちだけが宿泊できるコンチネンタルホテルの登場で加速する。殺し屋たちだけが集うホテル、そして殺し屋たちの間だけで流通する殺し屋通貨。こんな切り口の映画はそれまでありそうでなかった。

 そして二作目以降、フランチャイズと化したシリーズでは、アナログな電話機が居並ぶ古風なオフィスで、タトゥーだらけのお姉ちゃんたちが賞金首となったジョン・ウィックのキル・プライスをオークションするというまさに殺し屋たちの殺し屋たちによるアップビートな殺し屋ファンタジーとしての世界観も新たに、とにかくこの負け犬を楽しませてくれた。

 そのシリーズにひとまず決着をつけるべくの第四弾。加えて舞台に日本の大阪、俳優陣に真田広之ドニー・イェンまで加わるとなれば褌の紐もギュっと締め直したくなる。

 かくしてその第四作。オープニングからいきなり疾走していたアップテンポな二作目、三作目とはちょっと異なり、ジョン・ウィック・ワールドのメタファーだったあのコンチネンタルホテルの崩落というちょっとペシミスティックな導入部から始まる。つまり、出だしがややスローなのだ。

 でも、それもそのはずというべきか、本作のランニングタイムは2時間49分。スローテンポな出だしをボリューム感と捉えるか、それともただのスローと捉えるかに分かれる人もいるかもしれない。ちなみに負け犬は後者。いつアップテンポになるか思わずたじろいでいるうちにジャパニーズ・パートの大阪コンチネンタルホテルのシークェンスになっていく。

 ここで登場する真田広之を交え、あのレジェンド、ドニー・イェンが切れ味鋭いパフォーマンスを繰り広げるところから、あのいつものジョン・ウィック同様のビート感が幕開けする。

 そこからは文句ない。もう還暦のはずのキアヌが、ドニー・イェンとタイマン張って、ヌンチャクアクション見せてくれただけで思わず目を細めている。

 とにかくいつも通り殺して殺して殺しまくる。そのリズム感はよくよく考えれば、日本の和太鼓のリズムに似ていて、キアヌがまるで暴れ太鼓を叩きまくっているような幻覚に見舞われるほど。

 そして、そろそろお腹が張ってきたなと思って時計を見ると、何とまだ1時間も残っているではないか。いくら何でもあと1時間は無謀ではないのか。そんな不安が一瞬、負け犬の脳裏によぎってしまったことは吐露しなければならない。ところが、実は本作が本領を発揮するのはそこからなのだ。

 パリ・パーツのクライマックスに突入してからのアクションのつるべ打ちたるや、この負け犬のようなへたれな草食系を嘲笑うかのような、もう暴れ太鼓マックスのお祭りマンボ状態というべきか。

 とりわけ、キアヌが本作でどうしてもやりたかったマッスル・カー・バトルのシーンは圧巻そのもの。殺し屋たちが猛スピードの車に吹っ飛ばされまくり、ジョンにもまた吹っ飛ばされまくる、誰もが吹っ飛ばされ、誰もが宙を舞う、ファンタジーバイオレンスというべきビジュアルが目の前に現出する。

 かくしてタイムリミットが迫る中、あのドニー・イェンが見せてくれる漢気で、これまでの三作になかった熱いカタルシスを感じさせてくれるところはさすがというところ。

 かえすがえすもアラ還のパワーの凄さを見せつけられ、ただひれ伏すばかりの本作のエンディングには労をねぎらうとでもいうようなレクイエムが手向けの花のように添えられる。それを見届けた後、流れるエンディングに、おそらく、キアヌ・リーブスというハリウッドの第一線の俳優という稀有な人生を長年の間、生きて来た男に対し、誰もがお疲れ様でした~と声をかけたくなることでしょう。

 いよいよ中高年のボーダーもオーバーした方々には本作、3時間の見応え腹ごたえと共にとっておきの栄養ドリンクになるのではないでしょうかね~