陳腐な邦題が可哀想なほどデメリットなスペイン産ホラーサスペンスの絶好大良作
(評価 78点)

“密室の女奪われた情事”・・・いったい、どこから見ても火曜サスペンス的なこんな邦題の映画を能動的に見ようなどという人がいるのだろうか?おそらくタイトルだけなら誰でもスルーしてしまうのではなかろうか。事実、この負け犬にしても良作というレビューを横目にしつつも、邦題のあまりの陳腐さに及び腰のまま、そのうち見ようリストのまま放置状態になっていた。そして、ようやく重い腰を上げて見てみた次第、すると、何ともまあ実に絶妙な構成で唸らせてくれた、近年、稀に見る(本作、製作は2009年とかなり前なのだが・・)といっていい超佳作であったという、これまた顛末になったという次第。
そんな本作、出だしはいたって凡庸、しかし、その凡庸さもまた一つの伏線になっていることが中盤あたりから明らかにされるところが実に巧みなところなのだ。
冒頭、涙ながらにあなたとはもう暮らせないと切々に訴えかける恋人ペレラのスマホの映像を見ている指揮者のアドリアン。

アドリアンはそのまま町のレストランで傷心のままやけ酒を呷る。すると見かねたウェイトレスのファビアンが泥酔するアドリアンを自分の家まで送ってやり・・。
それがきっかけでアドリアンはファビアンを別荘を兼ねた自宅に向かい入れ、二人の生活が始まる。
ハイソな指揮者のアドリアンの豪邸に招かれたファビアンだが、どうやらアドリアンには失踪した恋人がいることが分かり、警察も彼に目をつけているらしいのだ。その上、洗面台の流しの口から、何か奇妙な音がすることにファビアンが気付き、疑惑と恐怖に苛まれていく。本作、テロップやタイトルカードは出ないが、きっちりとした二部構成になっている。ここまでがいわば第一部。
最初の一部だけでいえば、ハイソな暮らしに踏み込んだ庶民の娘が疑惑に捕らわれるといったヒッチコックの「レベッカ」から星の数ほど作られた凡百のスリラーと変わらない。

しかし、前半の第一部で描かれた謎が明かされる第二部で驚くことになる。いわば伏線回収のその手際は、あざとさなど微塵もなく、登場人物の行動の論理性も一応、辻褄が合っているから、見ながらなるほどと唸らされることがしきりなのだ。
そして、その人物の些細な行動が引き起こした引くに引けない手づまりな状況に、こちらも食い入るように引き込まれる羽目になる・・といえば良質なサスペンスのお手本だろう。

仰々しい暴力も残酷な描写もなく、ただサービスのつもりかヒロインのファビアンは痩身の裸体をあっけらからんと頻繁に晒すのだが、それにしてもかっちりと組み上げられたプロットのみで観客を納得させてくれて極上の時間をもたらせてくれる水準以上の良作であることに間違いはない。

もともとスペインといえば、「オープン・ユア・アイズ」や「ロストボディ」「インビジブル・ゲスト」といったサスペンスの佳作があった。これらは、いずれも他国でリメイクされている。それはとりもなおさず、そのコンテンツが再使用に耐えうるほど秀逸であることの証だろう。
そして、本作もまた例に漏れず韓国でリメイクされている。そのタイトルは「破顔」。邦題とは打って変わったそのタイトルはオリジナルの本作の原題を踏まえている。ちなみに本作の原題は“隠された顔”。
アドリアンか、ファビアンか、はたまた失踪したアドリアンの恋人ペレラか、一体、だれの隠された顔が暴かれるのか?でも、そういった通俗的なベクトルを小気味よく裏切ってくれるほどの裏の顔を本作自体が持っている。
古今東西、サスペンス映画やドラマは星の数ほどあるが、ピリリとスパイスの効いたスペイン料理のような本作を、その月並みな邦題だけで迂闊にジャッジして見過ごす手はないですぜ


































