負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の恐怖はカルト「悪魔の追跡」

村八分同調圧力・・不穏な言葉だと思いませんか

(評価 82点)

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この映画、そもそもお正月映画として公開されていた。でもあくまでもメインの一枚看板ではなく併映作のおまけつきのいかにもなB級映画。

 初めて見たのは月曜ロードショー。以来、ホラージャンルの作品としては不動の揺るぎないマイベストの地位にある作品となっている。何といっても、ホラーとカーアクションをそのまま安直に合体させたら思いがけない傑作が生まれちゃったというお手頃感が子供心にすでに芽生えていた自分のB級フリークの琴線にもろに触れてしまったのだろう。

 この作品、一番怖いのは追っかけてくるのが超常現象的な悪魔などというこけおどしの存在でもなんでもないところ。追っかけてくるのはあくまでも道で出会えば愛想よくあいさつしてくれ、スーパーにいけば山ほどいる特売に行列を作る隣のおばさんやオジサン、それに兄ちゃんにネエチャン。そうごく普通の隣人たちなのだ。ただ一つ違うのが彼らが皆、カルト信者であること。

 バイクメーカーの共同経営者ロジャー(ピーター・フォンダ)とフランク(ウォーレン・オーツ)は互いの妻と連れ立って、キャンピングカーで念願のバカンスへと旅立つが、途中立ち寄った川辺で、悪魔崇拝者の一団が黒ミサの儀式を行って少女を生贄として殺害する現場を目撃してしまう。そして、それに気づいたカルトの一団がどこまでも追ってくる。

 ただ、それだけです。この映画、それ以外の一切の余分な付け足しや補足も何もない。まさに何も足さない何も引かない、すがすがしいまでのストレート勝負です。そこが素晴らしい。

 相手はカルトです。その集団に何も悪意がないのが最も怖い。いわば、彼らは完全に洗脳された脳みそで異分子を排除して自分たちの遺伝子を蔓延させようとする動物の本能に則って行動しているだけなのです。

 日本にも良くある土地柄の因習や村の掟、といったものに不穏な感情を喚起させられる生理的な恐怖感は誰にでもあるのではないでしょうか。この映画、ニクいぐらいにそこを突いてきます。

 止むことのないロジャーたちへの追撃網はひっ迫していくばかり。最後、安全地帯と信ずる領域を目前にしたハイウェイで決死のチェイスの火ぶたが切って落とされる。

 マッドマックス2のタンクローリーに群がるモヒカン軍団の如く、カルトたちがロジャーのキャンピングカーに追いすがる。しかし、何とかその追撃網を撃破することに成功、もはや安全地帯もすぐそこに・・とくれば誰でも、そう悪くはないエンディングを予兆はするはずだ。

 そこはやっぱり70年代のB級映画。決して容赦などしてくれない。そう、衝撃のエンディングが待っている。

 このテイストはまさに、誰かに救いを求め、やっと救済にこぎ着け足下にすがりついたら、鼻先でピシャリとドアを閉ざされるあの感じ。現実には救いはないがせめて映画だけでもなどという甘っちょろい考えを持つ輩を吹っ飛ばす爽快感すらある。

 ある意味、この暗黒のエンディングは人生訓ともとれる。結局、最悪のエアポケットのようなシチュエーションに落とし込まれた人間は、どうあがいてもムダなのだ。

上昇志向が少しでもある人がこの映画を見ちゃったら、何をやっても全てムダ、という厳しい現実を突きつけられてこの負け犬のような敗残者となっていまうかもしれないぞ。それほど全てのポジティブな感情をねこぞぎシャットアウトするラストなので覚悟のほどを