負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。また、日々のトピックや時事問題に関する雑感を、生き物たちが繰り広げる動物コミックのスタイルでご紹介!どうぞお楽しみください

負け犬がグラサンかけたら世界がちょっと大変なことになっていた件「ゼイリブ」

貧困層貧困層による貧困層のための貧困ホラーの傑作!貧困層が覚醒し蜂起するそのきっかけこそが百均のサングラスだった!貧困のパラノイアな世界観を体感せよ!

(評価 80点)

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のっけから発散される貧困臭に、カーペンターならではの無機質なドライブ感覚、そこに絶妙なアイデアが融合した貧困ホラーの大傑作!

 ジャパンアズナンバーワンなどと浮かれていたのは、もうとうの昔、いまやすっかり貧困大国になり果て、さらにはコロナ過の追い打ちをかけられ瀕死状態となった日本。そんな今だからこそ、その真価をフルに発揮するのが本作。長らくの低迷を経てこの作品で復活を果たしたB級映画の帝王ジョン・カーペンター会心作でもある。

 本作のベースになったのは、レイ・ネルソンのEight’O Clock in the Morningという、たった6ページほどのショートストーリー。このショートストーリーをカーペンターはそのエッセンスだけを抽出し、新たに卓抜なアイデアを加えて、お得意のB級感覚で見事なSFホラー映画にしてみせた。

 映画の尺もきっちりB級フォーマットの96分とあって、あの日曜洋画劇場などで繰り返し放送されていた本作、ご存知の方もきっと多い事でしょう。サヨナラおじさんの淀川長治氏が小話程度の原作を巧みに映画にしてみせたと、その解説でも絶賛していたのを今でも覚えている。

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 だから今回はその原作のご紹介から。長らく個人的にも気になっていたこの原作、ふと思い出してネットでサーチしてみたら全文UPされていた、といってもたったの6ページしかないので早速読んでみたのです。

 小説は、主人公のジョージ・ネイダがいきなり覚醒するところから始まる。ワーキングクラスのジョージは、たまたま劇場で見ていた催眠術師の公演の最中、「目覚めよ!」の催眠術師の声ではっと目が覚める。そのままフラリと外を出ると何かが違う、見慣れたはずの街の広告が一変している。どこもかしこも人を洗脳するようなキャッチコピーだらけ、果ては街行く人々がトカゲ状のエイリアンになっている。だが、どうやら自分以外は誰もその事に気付いていないらしい。家に帰ると、その一味から一本の電話がかかってくる。「お前は明日の朝8時に死ぬ」。

 そんな洗脳のまやかしの呪縛を解くため、ジョージはガールフレンドの家に行く。だが、当然、自分が見たことを話しても信じてはくれない。ジョージはガールフレンドを縛り上げ、ピストルを奪うと来訪者を撃ち、そのまま町へ繰り出す。向かうのはTV局。そしてTV局に乱入し、世界にメッセージを発信したところでジョージは心臓麻痺で息絶える。その時間はかっきり朝8時だった・・。

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 かくして、この一人の男の現実ともパラノイアともつかないショートショートに目をつけたカーペンターが独自に盛り込んだ出色のアイデアこそが、何の変哲もない安っぽいサングラス。妄想との境界線が曖昧な原作に対し、本作では、主人公がたまたま手にしたサングラスをかけると、まるで人体標本のようなルックスをしたエイリアンがバッチリ可視的に見えると言う仕掛けになっている。

 グラサンかけたら見慣れたはずの世界が一変する。そして、その世界が大衆をただ無知蒙昧な存在に洗脳する戯画化された大量消費社会だったというアイデアこそ本作が唯一無二の存在感を誇る所以。

 大都会へと流れ着いたホーボー同然のネイダ(パイパ・ローリー)は、日雇いの仕事にありつくもねぐらがなく、貧困層たちのコミューンに足を向ける、そこにただ一軒、ポツンと建っている教会が気になり、向かったその中でネイダは、サングラスが詰め込まれた段ボールの箱を発見する。持ち去ったその箱からサングラスを手に取りそれをかけてみると、何と世界が目の前で一変して・・。

 本作がただアイデア頼みの荒唐無稽な侵略モノにならずに、独特の説得力を持っているのも、主人公がロウアークラスの貧困層であることを序盤で無駄なく簡潔に描いているから。また主人公のネイダにプロの役者ではなく、プロレスラーのパイパ・ローリーを起用したのも見事なアイデアの一つといえる。

 屈強なパイパ・ローリーがサングラスをめぐって、巨体の俳優とお得意のプロレスのパフォーマンスを駆使して、5分以上にもわたって格闘を繰り広げるシーンはユーモラスでもあり、見応えも十分。

 いつものカーペンターならではの無機質なリズムの音楽も心地よく、「従属せよ」「子供を増やせ」「消費せよ」「労働せよ」という威圧的なキャッチコピーが溢れる世界観ともあいまって、出色なアイデアを根幹にすえたB級映画のエッセンスを心ゆくまで堪能させてくれる。

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 世界のカラクリを知り、レジスタンスたちとTV局に踏み込んだネイダたちの運命の結末とは・・?もしも本作を未見の方がいたら、是非、ご自分の目で確かめていただきたいのです。

 それにしても、貧困、ネットのフェイクニュースヘイトクライム、いじめ、虐待、さらにはとどめのコロナと、ネガティブな要素が絶えない昨今だけど、本作の主人公のように、世界の裏には何かがあって、我々もただメディアを通じて洗脳されているというパラノイアになってもあながち不思議ではない。そんなことを考えてしまうのもこの負け犬が極度にヘタレな被害妄想だからでしょうかね~