負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬たちはエイリアンの卵だった「ダークスター」

急停止する宇宙船とゆるゆるのオフ・ビート感覚が秀逸なカルトSFの傑作

(評価 70点)

 

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その昔、雑誌「ロードショー」にその後、巨匠となった若き監督たちの学生時代の作品群のスナップが載っていた。その記事の中で「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスの「THX1138」やマーティン・スコセッシの「ビッグ・シェーブ」といった短編と並んで載っていたのが、後にB級映画で名を馳せるジョン・カーペンターのデビュー作たる本作だった。

 学生時代の自主映画を劇場映画にリメイクしてデビューした経緯はジョージ・ルーカスと同じだが、シリアス路線の「THX1138」とは違い、こちらは徹底したオフ・ビート。だが、しかし、侮れないのはカーペンターと共同で脚本を書いた実質的な本作のクリエイターがダン・オバノンであること。

 ダン・オバノンといえば、言うまでもなくあの超傑作「エイリアン」のクリエイターでもある。というわけで本作、あきれるくらい後の「エイリアン」に見られるディテールに満ち満ちている。

 たとえば本作の主人公、探査船ダークスター号の三人の乗務員のひげ面でヨレヨレのカジュアルなルックス。ゴテゴテとしたリアリスティックな船内。ダークスターは不安定惑星を破壊するのが任務だが、コンピューターが搭載されたその爆弾そのものが、いわば「エイリアン」のノストロモ号の全機能をコントロールするコンピューター、マザーにあたる。

 勿論、さきのSF映画の最高傑作「2001年宇宙の旅」からのインスパイアも多々見受けられる。クライマックスでは、「2001年宇宙の旅」のディスカバリー号のHALが人間に反乱を起こしたように、20号爆弾が人間に歯向かい、自爆を成就しようとする。

 その20号爆弾に三人の乗務員(その一人のピンバックをダン・オバノン自ら演じている)がよってたかって爆発しないよう説得するのがなんとも笑える。しかし、20号は断固として拒否し爆発に向けてのカウントダウンが刻一刻と進行する(このシークェンスも「エイリアン」のクライマックスでノストロモ号の自爆を必死で回避しようとするリプリーにそっくり引き継がれている)。

 その時、船長のドゥーリトルが最後の頼みの綱にするのが、コールドスリープ状態の上官(まさにこれも「エイリアン」に移植されている)。その指示によってからくも爆発を免れるのだが、エンディングには思い切りいい加減なオフビートの極みのような結末が待っている。(初見の時は、あまりのアホらしさに唖然とした)

 ただしこの映画がスゴイのは、明らかにスチル写真と分かるツーと横移動するだけのダークスター号やビーチボール丸出しのエイリアンなど誰が見ても低予算なのが一目瞭然なのに不思議とチープな感じがしない。それどころかリッチな感覚にあふれているのだ。

 そのことに貢献したのが本作のプロダクション・デザイナー、ロン・コッブの功績に間違いない。あの「エイリアン」にはフランスのBDの帝王メビウスを始めスゴ腕のデザイナーたちが集結したが、ロン・コッブも世界中から参画したデザイナーたちのコアなメンバーの一人だった。

 それに加え、モデル製作を担当したのが「未知との遭遇」のマザーシップのモデルメイクを担当したことでも有名な天才モデラー、グレッグ・ジーン。考えてみればいかにキラ星のような才能がこの一作に集結していたかがよく分かる。

 言ってみれば、このヒッピー成り上がりのような負け犬同然のむさ苦しい男たちは皆、あの「エイリアン」の卵なのだ。その卵から飛び出し、フェイスハガーとして世界中の観客に度肝を抜かせるのはこのわずか3~4年後のことだ。

 とにかく本作、若いバイタリティーあふれる才気に触れられる悦楽に浸っていられるカルトSFの傑作なのは間違いない。