負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の大正のモダンでレトロな呪術廻戦「帝都物語」

大正ロマンの香りも豊かに繰り広げられる禍々しくもギミック感満載の呪術の宴!

(評価 72点)

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呪術、妖術入り乱れての大戦争!どこかハイブリッドでモダンなテイストが楽しいレトロなオカルト大作。

 その昔、あの「ウルトラマン」に身も心も奪われていた幼年期。毎回、夢中でブラウン管にかじりつくようにして見ていた頃、子供心にも異様な感覚を抱かせられることがあった。たとえば、本来、明るい照明で照らされるはずの俳優さんの顔のドUPが、逆光で黒々と影になってつぶれている。交互に映されたその顔から発せられるのは異様にシリアスなセリフなのだ。それが、いわゆる演出というものであることを意識するようになるのは、ずっと後になってからのこと。そして、そういう演出が成されているエピソードには、必ず小難しい漢字の並ぶある男の名前のテロップが画面に出て来ることも。

 その名前こそ実相寺昭雄ウルトラマンで数々のエピソードを手掛け、そのエッジを効かせた数々の演出で名を馳せた監督その人だった。そのシュールともいえる前衛的な演出のインパクトはこの負け犬の心にも、その後も消えることのない刻印のように刻まれることになる。だが、その監督の名を劇場映画で見かけることは、ついぞなく、その名前だけが極私的なレジェンドのように記憶の隅で生き続けていたその頃、意外なシーンでその名前と出くわすことになる。

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 当時の大王製紙のエクゼ出資による本作のTVスポットが流れ出した頃、そこに流れる瞬間的なカットが持つ映像のインパクトに目を見張り、そこに何処かでいつか見たような感覚を覚え、もしやと思い監督の名前を見たら実相寺昭雄と書かれてあり驚いたのを今でも覚えている。

 本作公開時、誰もが抱いたのが、本作のキーキャラクター、加藤を演ずる嶋田久作の人間離れしたようなビジュアルのインパクトもあいまって、その映像から発散される異様さだった。普通の日本映画とはまるで違うシャープな感覚とでもいおうか、とにかく、まったくの突然変異のようなハイブリッドな感覚があった。

 日本で今も最大のパワー・スポットとされる平将門の平塚をめぐって、陰陽師が風水の限りを尽くして、帝都東京の破壊を目論む加藤保憲と対決するという奇想天外な荒俣宏氏の原作を元にした本作。大正時代の風俗を贅沢に再現した目を見張るオープンセットに加えて、ギミック感満載のミニチュアを多用しつつも、実相寺昭雄がここぞとばかりに本領を発揮した様式美。更には持ち前のシャープな映像感覚を存分に発揮したカットが続出する実にゴージャスな作品になっている。

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 その上何と、所々に出て来るクリーチャーたちのデザインがあのエイリアンのH.R.ギーガー、役者陣も政界の重鎮たる実在の渋沢栄一勝新太郎を始め錚々たるメンバーが名を連ねるその本気度が、一種の迫力として画面の隅々からほとばしっている。

 たまに日本映画でも、他の映画とはまるで異質なハイブリッドなテイストの映画が出現して驚かされることがあるけど、本作はまさにそんな触感をもった映画と言える。

 陰陽師たちが繰り出す呪術に、関東大震災のスペクタクル、帝都の地下に建造された東京メトロ、さらには震災復興後の東京大博覧会に、日本初の人造人間、学天測の登場と、ありとあらゆる具材が重箱に敷き詰められた目にも嬉しいおせち料理を思わせる贅沢さが実に楽しい。

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 そして、そんなフォーマットの中で、久しぶりの劇場大作に、積年のうっぷんを晴らすかのように爆発する実相寺昭雄監督の演出が随所に光っている。その白眉が、大蔵省の辰宮の、霊力を持つ娘の恵子が、雑踏で加藤にさらわれる際の鋭いカットとダイナミックなトラッキングショット。

 実相寺昭雄監督は、本作公開当時のキネマ旬報に寄せたコメントでも、、映画は観客が満足したと心から言ってくれないと成功したとは言えないと、自らの演出に満足げなコメントを寄せていたことを今でも憶えている。

 「ウルトラマン」当時から、あまりに、際立った演出ぶりから、周囲との軋轢やトラブルが絶えなかった監督が、遂に大作でクリエイティブな面でも興行的にも成功というものを勝ち得た初めての作品だったのではなかろうか。

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 にしても、やはり今見ても嶋田久作氏演ずるこの加藤のキャラクターのビジュアルイメージは実に強烈。当時も、まるでアンドロイドを目の当たりにしたような人間離れしたような異様さに驚いたけれど、未だにその異様さが健在なのが何だか嬉しい。

 映画のヴイランとしては、あのダースベイダーをも超えるインパクトがあると思うのはこの負け犬だけでしょうかね~