負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬さんの神経症の妊婦はかくも怖いという件「ローズマリーの赤ちゃん」

多分、この映画は妊婦さんに見せたらヤバイ。実際にガリガリ君みたいな勢いでガリガリ痩せていくミア・ファローが何よりも怖い

(評価 78点) 

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今更ながらのホラー映画の傑作との誉れも高い「ローズマリーの赤ちゃん」。実はこの負け犬、恥ずかしながら未見だった。最近、また「水の中のナイフ」を見直し、ポランスキーの才能に驚嘆したこともあり、いそいそと見てみましたが、さすがはポランスキー、見事な作品だった。

 あの不滅のエンターティナー、サミー・デイヴイス・ジュニアの著書「ハリウッドをカバンにつめて」の中にサミーが本作をニューヨークの劇場で公開時に鑑賞した時のことが書かれていた。

 本作のクライマックス。最後いよいよミア・ファロー扮するローズマリーが戸棚の背後に隠された秘密の部屋へと続く廊下に踏み込み部屋を覗き込む。その時、劇場で席を埋め尽くした観客たち全員が一斉に同じ方向に首を傾げて自分自身が部屋を覗き込む仕草をしていたという。この本を読んだのは30年以上も前。何故かその本のその一節がずっと記憶に残り、気にはなっていた映画ではあった。

 本作はまさにサミーのこの一節通りの映画と言える。ホラー映画とはいえ、こけおどしの描写やシーンは全くない。あるのは妊娠し、新たな命を体内に宿した女性が日々の生活の些細なディテールに怯えるニューロティックな日常の描写だけといっていい。だが、それなのに見事に怖い。ポランスキーはこの些細なディテールを実に巧みにすくいとり、淡々とそれを積み重ね、観客をヴァーチャルなレベルまでローズマリーに感情移入させてみせる。サミーが劇場で目撃した観客のリアクションからもその演出術がいかに見事に作品に結実したかが分かる。

 本作のイントロダクションとして必ず出てくるのが、ローズマリーが住むマンションの隣人たちが悪魔崇拝者であるというものだ。しかし、クライマックスに至るまでそれを示唆する直接的な描写はほぼ出てこない。ただ、パラノイアックな妄想に捕らわれ変容していくローズマリーを執拗なまでに追っていく。しかし、他の監督であれば退屈になりがちなこの展開が、ポランスキーの手に掛かれば独壇場といっていい世界へと変わっていく。現実のシーンにそのまま土足で入り込んで来るような妄想シーンの卓抜な描写、ガリガリに痩せていきバッサリとショートヘアーにして目に隈を作って怯えるローズマリーの異様さ。

 実はこの作品の原作は大昔に呼んでいた。確かあとがきの解説の著者アイラ・レヴインのコメントによれば本作の着想は自分の妻が妊娠し、日々、感情が不安定となっていく様子を見守るうち、何だか子供を身ごもった妻が別の異様な生き物にメタモルフォーゼしていくような感覚にとらわれたことだったと述べていた。

 映画はまさにこのエッセンスだけを純粋にろ過して、ローズマリーの変わりっぷりを見せてくれる。最後にローズマリーが自分の赤ちゃんと対面し、最初は恐怖するばかりだったのに、泣き出した我が子に気付きあやそうと乳母車に手をかけたローズマリーの表情は確かに別の次元の生き物にでも変容したかのような表情を見せていた。

 とにかくフォビアやパラノイアを描かせたら右に並ぶものがないポランスキーの代表作であることは間違いない。しかし、一番の見物は隣人のキャスベット夫妻のキャスベット夫人を演じたルース・ゴードンの素晴らしさ。この一見、大阪のオバチャンみたいなルース・ゴードンが何より本作で一番、怖かった。