負け犬的映画偏愛録

負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題、のたまいます。また、たまに<映画をエンジョイ、英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬さんの呼吸は無用息を呑むほどカッコ良いセミ吸血男と天才監督の編集技術にマーベルのマンガコンテンツ戦略の事始めという件「ブレイド」

ブレイドの仇敵フロストが実はブヨブヨの血液の塊だったこと、監督のスティーヴン・ノリントンとの犬猿の仲があの激烈映像を生み出したことをメイキング映像で知って驚いた

(評価 89点)

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その昔、とりあえず何でもいいからヒマを潰そうと当時良く通っていた天六の映画館に出かけた。そこは勿論、二番、三番映画専門のケチな小屋。その日はとにかくヒマさえ潰せれば良かったわけで、早速、その二本立てを鑑賞し始めた。だが、そこでとんでもないものと遭遇した。

 一本目はC級映画の御用達ポール・アンダーソンの「ソルジャー」。遺伝子操作で屈強になった兵士にカート・ラッセルが扮した、ちょうど「イベント・ホライゾン」などの愚にもつかないガラクタ映画をアンダーソンが連発していた時期に放った自称超大作とでもいうべき珍作だった。良くもなく悪くもなく、可もなく不可もなく、そもそもヒマ潰しだから何とも思わず見上げたらクレジットタイトルが流れていた。

 次の映画も何の期待もしなかった。勿論、どんな映画かすらまるで分からず見始めた・・すると、冒頭、男を誘う女が一時期、ハードコアのポルノ女優として一世を風靡していたトレーシー・ローズであることに気が付いた。そのトレーシに男がのこのこ付いていき連れ込まれた先が、ダンスミュージックが鳴り響くクラブの店内。男がウキウキ気分で踊っていると、客たち全員がいきなりうなって牙をむく。そうそこはヴァンパイアたちのダンスクラブだったのだ。絶体絶命の男。するとそこに現れヴァンパイアたちの前にグラサンをかけた一人の黒人が立ち塞がってニヤリと笑う。

 その瞬間、全ての空気が変わった。男が刀を抜く、たちまち轟くサブマシンガン、目まぐるしいカットと共に展開されるバトル。何だこれは、思わず目を見張った。怒涛のようなアクション。刀で粉砕されていくヴァンパイア。そして男が刀でクラブのフロアに弧を描きポーズを決めた時こう思った。こんなカッコイイ映画見たことねえ!

 その後もただひたすらカッケーを心の中で連発し続け、クライマックスの「マグラの書」の血の儀式で仇敵フロストを男が倒し、その後のロシアのエピローグでエンドクレジットが流れだした時にはほぼ呆然と放心状態に陥っていた。その瞬間、その主人公の男の名が自分の脳裏に刻印のように撃ち込まれた・・「ブレイド」。

 唯一残念だったのは、3番館の悲しさ、パンフレットが買えなかったこと。帰ってすぐに調べた。するとそのキャラクターがマーベルブランドであることを知った。今や巨大なフランチャイズとなったマーベル帝国。しかし、この2000年代未満の時代、まだ映画界にはマーベルの“ま”の字もなかった。この「ブレイド」という鮮やかな先鞭なくしてマーベル時代の幕開けもあり得なかった。

 とにかく本作における映像、間違いなく監督ノリントンの際立った感性によるものなのは明らかだ。俗に言う映像感覚という言葉。その感覚は言うまでもなく映画の命『編集』からもたらされる。

 実は最近、このノリントンの監督デビュー作「デス・マシーン」のオフィシャル版とディレクターズカット版をYouTubeで見比べることが出来た。最初にオフィシャル版を見て次にディレクターズカット版を見始めるや愕然とした。当たり前の話、映像のソースはどちらも同じ、それなのにノリントン本人の手による編集によってまるで別物の映画のように生き生きとしているのだ。

かくしてノリントンの編集魔術が遺憾なく発揮された「ブレイド」。その虜になって辛抱たまらず、海外版のDVDをいち早く買って何度も何度も酔いしれた。

 海外版の特典の映像では、フロストが完成版とは異なり、ブレイドとの一騎打ちの対決の時、血液の塊のような巨大モンスターとなるラッシュ映像も収録されていて仰天した。さらに製作時のメイキングではブレイドのウエズリー・スナイプスとノリントンが必ずしも良好な関係でなかったことが如実に見て取れた。

 本作でとてつもないマーシャルアーツのポテンシャルを見せつけてくれたスナイプスは、自分なりの理念を本作にぶつけたはず、そしてまたデビュー作の「デス・マシーン」を経てメジャー作品を監督するチャンスを見事掴んだノリントンにも確固たるヴイジョンがあったのは本作の完成度を見れば一目瞭然だ。メイキングでは汗まみれのスナイプスが半ばあきれた感じでノリントンの演出を遠巻きにみつめる様子が伺える。これだけの映像感覚を発揮できる監督の感性はほぼ天才レベルといっていい。

 天才肌の所以だろうか、スティーヴン・ノリントンは、起用される作品の現場でことごとく俳優や製作陣と衝突し降板に至っている。その監督作は現在に至るまでわずか4本しかない。「ブレイド」という作品と監督の演出に骨の髄まで魅せられている負け犬は、いつかノリントンが再び「ブレイド」のようなとてつもない傑作を作ってくれることを切に望んでいるのです。ノリントンよ!カムバック~!