負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬の小さなトラウマ・ヒーロー「アントマン」

負け犬映画専門の脚本家が書き上げた良質のスクリプトによる、負け犬の負け犬による負け犬のためのヒーロー映画かつ負け犬のトンデモな「トラウマ映画」

(評価 74点)

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CGよりも何よりもやっぱり映画は脚本だ。たとえヒーロー物でも同じこと。それを改めて知らしめてくれる良作。

 昨今、溢れかえっているマーベル・ブランドのヒーロー物の映画たち。どれもこれも大人が楽しめるレベルかといえば、決してそうではない。ただCGによるゴテゴテとしたアクションのビジュアルオンリーで辟易させられるものが殆どといっていい。しかし、本作は、プリプロダクションの段階から、そのスクリプト、脚本の出来栄えがやけにいい、という風のうわさは何となく伝わっていた。そこで、恐る恐る見てみたら、申し分のない快作だった。

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 アントマンというヒーローの存在は知っていた。しかし、マーベルでも予備軍的な扱いの、アントマンについては、そのルックスも成り立ちもまるで知らなかった。だから、開巻、主役のスコット(ポール・ラッド)が服役中の犯罪者という設定には軽く驚いた。出所したスコットは、仕事を探すが、前科者の悲哀でなかなか見つからない。やっとありついた職がファーストフード店の店員でというギャグで笑わせるが、前科がバレてすぐにクビになる。そんなスコットには、別れた妻と暮らしている最愛の娘がいて、というステレオタイプだが、従来のヒーロータイプとは一線を画す、負け犬丸出しのヒーローに俄然、興味をそそられたのだった。

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 その後の、プロット展開も巧みだ。窮したスコットは、結局、元の泥棒家業に舞い戻り、仲間に誘われ、天才科学者ハンク・ピム(マイケル・ダグラス)の屋敷に忍び込む。そこで盗み出す羽目になったのがアントマン・スーツだった。実はピムはスーツを引き継いでアントマンになってくれる人材をリクルートしていてその白羽の矢が立ったのが前科者のスコットだった。

 ガッチリと組まれプロットはこの後も、小気味よく展開する。カギ穴をすり抜ける大特訓など、合間にインサートされ、リフレインされる小出しのギャグを交え、そもそもピムが開発した、物体がアリなみのスモール・サイズになる技術をめぐるバトルに向けて映画自体のテンポも加速する。そして、クライマックスはまさに王道。プロトタイプから進化したイェロー・ジャケットとアントマンとの「アイアンマン」を思わせる一騎打ちに、勿論、そこにはアントマンの設定ならではの、ギャグも兼ねた「きかんしゃトーマス」も登場しての大バトルとなって、でもそれが繰り広げられる空間は、あくまでもスコットの最愛の娘が暮らすマイホームの中だけでという設定まで備われば、もう申し分がないといったところでしょう。

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 かくして、アントマンの縮小、巨大化がせわしなく連続化するビジュアルの面白さだけでなく、脇役の小悪党たちのキャラクターや、アリさんマークのアイデアをぎっしりと詰め込んで良質の作品となった本作。やはりそのスクリプトの最終稿の完成までには、初期の構想から実に十余年の歳月を費やしている。そして、その本作の脚本の事実上のライターこそエドガー・ライト。そう、あの「ショーン・オブ・ザ・デッド」などの負け犬映画専門のような男なのだ。

 この男あってこその、本作のちょっとせつない負け犬的犯罪映画っぽい導入部こそが本作を大人も感情移入出来て楽しめるヒーロー物のエンタメにしたのでしょう。

 以来、やっぱり大好きで何度も見ている本作だが、ただ一つの難点は、当たり前の話だが、アントマンの仲間たちのアリさんたちがウジャウジャと出てくるところ。

 実はこれについては負け犬のトラウマといってもいい、ある出来事が・・・。とある夏の午後、ほんの小一時間ばかりの外出から家に帰って玄関のドアを開けたら、何と黒い絨毯状態となったアリたちの一群がキッチンの方角に向けてびっしりと続いている。仰天し、キッチンに駆け込むと、テーブルの上の砂糖が入ったガラスの容器の淵からこぼれんばかりにアリが群がっている。ギャっと思わず叫んで、負け犬が、溢れかえったアリの始末とその後の駆除剤を駆使しての後始末に追われたことは言うまでもない。だが、肩をゼイゼイ言わして一息つくと、首をひねった。外出していたのは、ほんの一時間にも満たない時間。そんな時間でそれほど大量のアリたちが、どうやって負け犬の家に砂糖が有ること、そしてその有りかを探り当てたのだろう?首をひねってひとしきり悩み、そしてネットでその生態を調べてみたら合点がいった。

 実はアリにも蜂のように働きアリたちがいて、その一匹の働きアリが事前に偵察部隊よろしく、エサの有りかを発見すると、そのまままっすぐ巣に帰ってその場所をちゃんとコロニーの住民全員に伝えるらしい。そこで準備万端整ったら、軍団を引き連れてエサへと大挙するのだという。

 力持ちだけではない。やはりアリはその知能も侮れない生き物なのだと納得した次第。しかし、もう何年も前の出来事なのに、あの気味の悪い大群を思い出しただけでも身体中がゾワゾワしてくる。そのトラウマが本作を見るたびに蘇って来るから厄介なもの。トンだ「トラウマ映画」というわけなのです。

 本作、予算もそこそこですけど、これだけ出来がいいのにブロックバスター級のヒットまでには至らなかったのも、案外、そんな生理的な嫌悪感が原因にあったのかもしれませんね~