負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんのポテンシャルの高い人材の潜在能力のブレイクタイミングと現場におけるマネージメントの問題、さらにその秘められたオタク・テイストの爆発は凄かったという件「ブレイド2」

組織においてポテンシャルの高い人材が想定以上の潜在能力を発揮する瞬間に立ち会える喜びはひとしおだ、またそいつが真正オタクであれば尚更だ

(評価 82点)

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前作「ブレイド」でその虜となった負け犬が、一作目からさして間を置くことなく作られた二作目の本作に駆け付けたのは言うまでもない。そしてまたしても凄いものと出くわした。

 まずは冒頭のプラハの風景にたちまち引き込まれ、血液バンクで堅実に営業するヴァンパイたちが謎の男(ノーマック)に逆襲されるイントロに度肝を抜かれた。すかさず黒社会のヴァンパイアたちがたむろするアジトのシーンとなり、そこに颯爽と現れたのはあの男。たちまちヴァンパイアどもを蹴散らすブレイド、飛び降り、軽やかに宙を舞い、炸裂段をぶっ放す。前作とは異なる、夜なのに明るい光を放つかのようなカラーで繰り広げられるこのオープニングにまたしても完全に魅了された。

 それからはもう矢継ぎ早や、前作でフロストに亡き者にされかけそのアジトに囚われていた相棒のウィスラー(クリス・クリストファーソン)を助け出し、連れ帰ったところを、忍者風ギアを装備した二人組に襲撃される。そこからだ。その二人組のいでたちを見た時、負け犬の臭覚のアンテナが、サムシングを感知した。そのサムシングこそ、アニメやマンガ道に邁進するものだけが獲得できるオタク・テイストだ。その二人こそ真のヴァンパイア一族たちで、その真正ヴァンパイアたちに反逆を始めた、遺伝子操作で変異した似非ヴァンパイア一味の討伐をブレイドに依頼に来たのだ。

 この毒を以て毒を制すのごとし「ダーティハリー2」をも想起させる、前作を踏まえてさらにワイルドに展開させるフランチャイズスピリッツを心得たストーリー展開もまさにオタク風味そのもの。そして、あのカンフー・キング、ドニー・イェンも交えた名うての一味を集め、ミュータントヴァンパイアのノーマックたち反逆分子の征伐へと向かうくだりになると己の血が熱くたぎっていた。

 かくして夢のような展開を経て、マカロニ的な仲間のラインハルトの裏切りで爆発した怒りを最後の激闘に注ぎ込むべく、ウィスラーから投げ渡されたグラサンをパッシ!とブレイドが手にした時には、既にもう興奮はエクスタシーの域に達し、本作の監督の手腕に惚れ込んでいた。その時に生まれて初めて目にした監督の名はギレルモ・デル・トロ。前作を凌駕するCGを交えたクライマックスに圧倒され、お約束のエンディングを見終えロビーを出ると、監督のプロフィールを確認するためパンフレットを買おうとしたが、堂々、ロードショー公開にも関わらず本作、悲しいことにパンフレットの販売はなかったのだ。しかし、その瞬間からギレルモ・デル・トロという男の名は、しっかりとこの負け犬の脳裏に刻まれたのは言うまでもない。

 前作をしっかりと踏まえつつ、さらなる魅力を開花させた本作との再会が待ちきれず、これも前作と同じ、早々と輸入盤のDVDを購入し堪能した。そしてこれもまた特典には大ボリュームの詳細なメイキングDVDが付属しており、このデル・トロの仕事ぶりをしっかりと確認できた。

 映画の現場において監督に求められるポテンシャルとは何だろう?おそらくクリエイティブなアーテスティックな資質がまず求められるのは間違いない。しかし、映画の現場はクリエイティブなセクションもあれば、スタッフの食事のまかないまで担うケータリングのようなセクションまである、いわば工事の現場、さしずめ一つの企業だ。とすれば監督に求められるのは多種多様なセクションを束ね、尚且つ作品のクオリティコントロールまで出来るマネージメント能力ということになる。

 そして、メイキングから一目瞭然だったのがデル・トロの現場におけるマネージメント能力のズバ抜けた高さだ。ただ我が強いファナッティックな姿勢だけでは人は誰もついてこない。多彩な意見を取り入れながら一つのヴィジョンを作りあげなければならない。その点、メイキングからうかがいしれるこのデル・トロのグループにおける協調性とリーダーシップは明らかにずば抜けていた。

 集団におけるリーダーがどうあるべきか、多くは語らずその姿勢で語る貴重なメイキングともいえる。

 本作で見事にブレイクしてのけたデル・トロ。この「ブレイド2」は、メキシコ時代のデビュー作では比較的控えめにゴシックテイストを表現していたデル・トロが、爆発するかのように持ち味のオタク・テイストを開花させた記念碑的作品でもある。その一作一作が楽しみな、今や業界になくてはならないマスコット的存在ともなった我らがデル・トロ。この愛すべきクリーチャーのようなキャラクターにストレートに触れられる作品としてこの「ブレイド2」はかけがえのない存在だ。