負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬のアトラクションは命がけ「ウェストワールド」

若き俊英マイケル・クライトンが、劇場映画初監督作で、その才気煥発ぶりのみならず、あのウェスタンの名作「荒野の七人」のクリスが、そのままのスタイルで登場する遊び心まで存分に発揮したテクノ・スリラーの秀作

(評価 74点)

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楽しいはずのアトラクションが、命がけの決闘の舞台へとシフトする、後のアトラクション隆盛時代まで予見したクライトンの先見性に、改めて瞠目させられる一作。

 アトラクションやテーマ・パークの魅力とは、手近なところで、ヴァーチャル的な異世界感覚が味わえるそのトリップ感に他ならないでしょう。でも、そのアトラクションにリゾート気分で行ったら、命がけの決闘をする羽目になってしまった平凡な男というモチーフを、先見的なロボット工学というアイデアを交えて卓抜なスリラーにしてしまった男がいた。

 その男こそ誰あろう、2メートルを超える、バスケット・ボール選手顔負けの巨体と圧倒的な知力で、若くしてテクノ・スリラーという新ジャンルを打ち出し、世界を驚かせたマイケル・クライトン

 アメリカの片田舎の町に落下した隕石に付着していた地球外の微生物による脅威を描いたクライトンの代表作「アンドロメダ病原体」は、この負け犬も、ロバート・ワイズ監督による映画版をTVで子供の頃に見て、その面白さと迫真的なリアリティに圧倒されたのを今でも憶えている。その後、クライトンによる原作の翻訳版の文庫本のみならず、そのペーパー・バック版の原書まで入手しては、繰り返し読んでいたが、やっぱりその「アンドロメダ病原体」で際立っていたのは、要所で研究論文をそのまま引用したような疑似ノン・フィクション的なスタイルを取り入れるなどの、クライトンという人の渙発そのもののその才気。

 迸るような才気が、小説の世界だけにとどまるはずもなく、クライトンの才能は、その巨体までをもはみ出して、映像の世界にまで越境していく。TVで昔、見た本作は、オリジナルのランニングタイムが90分ということもあり、TVの洋画劇場の放送の尺にもピタリと収まって、とにかく小気味よく楽しませてくれた秀作だったという記憶がある。

 アミューズメントパークを有する巨大企業「デロス」社のモキュメンタリー的なPR映像で始まる本作は小粒ながらも、映像の現場とは、まったくの門外漢のクライトンの劇場映画デビュー作とあって、たどたどしさは目につくが、今見ても、十分に楽しませてくれるB級映画的面白さに満ちた良作といえる。

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 マーティン(リチャード・ベンジャミン)とブレイン(ジェームズ・ブローリン)の二人は、休暇を楽しもうと、「デロス」社のアミューズメントパークを訪れ、仮想の西部劇の世界が体験できるウェストワールドをエンジョイすることに。そんな二人の相手となる人物たちというのが、最先端のロボット工学によるロボットたちで、人間の嗜好と欲望を満たすべく、デロスでホスト役として活躍している。ところが、ロボットたちを制御するシステムに障害が発生し、ホストとなるロボットたちが人間に反乱する事態となって・・という展開は、今さら説明不要なほど有名でしょう。

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 最大の見せ場は、敵役となるロボットのガンマンとの死闘なのだが、このガンマンがあの「荒野の七人」のクリスそのままのいでたちのユル・ブリンナーなのが何ともウレしい。この黒ずくめの、両目を不気味に光らせたロボット・ガンスリンガーが、何処までもマーティンを追ってくるくだりは、後の名作「ターミネーター」の原形素材を見るようで実に楽しい。

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 昔、見た時は子供の頃ということもあって、ただ面白いという印象しかなかったが、今、見ると如何にも低予算っぽいガジェット感満載の映画であることに、改めて気付くところも多い。しかし、このクライトンという人で感心するのは、学生時代に華々しく作家デビューを飾り、たちまち何作も出版したベスト・セラー作家としてのネーム・ヴァリューを最大限に駆使して、まったく未知の映画の世界にいきなり踏み込みながらも、ちゃんと体裁良く、ウェルメイドな映画作りまで難なくこなしてしまうその器用さ。

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 実際、本作の、きっちりとエンタメに徹し、年季の入ったベテラン監督が作ったかのような、ムダのないプログラムピクチャーの見本のような仕上がりぶりは、まったく予備知識なく本作を見た人なら、そう言われでもしない限り、素人同然の監督がいきなり作ったなどとは、まったくと言っていいほど気付かないだろう。

 プロデューサーがクライトンに本作の監督までさせたのも、半ば宣伝まがいの戦略があったのかもしれない。それにおそらくその時代、まだ旧態依然とした映画の現場のスタッフたちのベストセラー作家の七光りへの反発もあったはず、しかし、その逆風をものともせず、見事にそつなく劇場映画を作り上げた才能には感心する(あのホラーの帝王スティーヴン・キングが「地獄のデビル・トラック」を引っ下げ、鳴り物入りで監督デビューを果たすも、そのあまりの才能の無さに、満天下の笑い物となって、たった一作だけで鳴りを潜めてしまったのは有名な話)。

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 その上、この人は、その巨体に似合わず、この「ウェストワールド」のアミューズメントパークというアイデアを、この二十数年後に、ちゃっかりリサイクルして「ジュラシックパーク」というブロックバスターまで生み出すエネルギー効率の良さまで備えているから舌を巻くしかない。

 好奇心から何かと手を出して、一つたりともモノに出来なかった負け犬からすると、いやはや、何とも羨ましい限りのマルチタレントぶりですよね~