ポンコツもなんのその、パクリのバッシングなんて気にしない!とにかくがむしゃらに好きなものをぶち込んで突っ走る、その精神こそが大事!
(評価 72点)
オタクの流儀
まったく新たな才能が、とにかくやみくもに自分の好きなものをすべてぶち込んで無我夢中に作り上げたデビュー作を見ることは、映画フリークの無上の喜びの一つと言っていい。本作は、あの大傑作「ブレイド」の超絶的アクション演出で、負け犬のみならず、世の全ての映画フリークを腹の底から唸らせてくれた、スティーヴン・ノリントンのデビュー作。そして、その俊英ノリントンが、自らのオタク魂の全てを注ぎ込んだような、すがすがしいまでの気概を感じさせてくれる一作だ。
最初にことわっておくと、本作の出来自体、少なくとも上出来とは言い難い、それに、ストーリーからルックス、ディテールにいたるまで、あらゆるものが、本作は、パクリパーツのスクラッチ・アンド・ビルドと言ってもいい。でも、パクリだ、モノマネだ、といったバッシングなぞどこ吹く風で、やみくもに突っ走るそのスタンスに、とにもかくにも、ひとまず嬉しくなってくる作品なのだ。
パクリ天国
本作はそもそも劇場未公開。でも、ビデオスルーでリリースされた当時、とにかくイキのいい作品として、怒涛のように垂れ流される玉石混交のB級作品群の中でもひときわ目立っていた。そんな本作は、冒頭から、どこかで見たようなポンコツそのもののコンバット・ギアを装着したセミ・サイボーグが登場するパクリ御免の世界だ、
制御不能でいきなり殺処分されるそのセミ・サイボーグは、兵器メーカーのチャンク・コーポレーションのプロト・タイプで、チャンクは人道主義の左派や世論から、人間を殺人マシーンに変える、その製造計画の阻止を迫られている。チャンクのCEOケイルは、世論を受けて開発担当者のジャック・ダンテ(ブラッド・ドゥーリフ)を解雇しようとするが、ダンテは自らプライベートに開発していたアルティメット・モデルのデスマシーンを放ち、ケイルを殺害しようとする。
しかし、その頃、ハッカーのグループがチャンク本社に忍び込み、機密情報を奪うためビルの内部を荒らしていた。かくして、巨大な密室と化したビルディングで、サイコパスのダンテの性格が乗り移ったような殺人マシーンとケイル、そしてハッカーたちの一夜の攻防が幕を開ける。
一夜だけの攻防戦、閉鎖空間での籠城モノ、モビルスーツにプロテクター、そしてハードな重火器に暴走する自足歩行ロボと、本作は、オタク印の映画フリークが涎を垂らしそうなスクラッチ・パーツをぎっしりと詰め込んで、これでもかとばかりに繰り出して来る、そのスタンスがとにかく心地よい。
見てくれのルックスは、誰が見ても、もう「エイリアン2」そのもの、華奢なケイルが、重火器をデスマシーン目掛けてぶっ放し、防戦一方だったハッカー一味が、プロテクト・アーマーを装着するや、俄然、心身ともにサイボーグと化してデスマシーンに立ち向かうくだりの、「エイリアン2」そのままのパクリには、唖然とするよりも微笑ましく、逆に愛しくなってくる。おまけにジャック・ダンテ(ジョー・ダンテ?)、リドリー・スコット、サム・ライミと、出てくるキャラクターたちの役名に、オタク・カラーの有名監督たちのネーミングをずらりと列挙してくれれば、もうそれだけで拍手したくもなる。
「ブレイド」への系譜
本作には、ノリントンが「ブレイド」で見せた洗練ぶりは無い。それよりも本作にあるのは、とにかく無鉄砲な不器用さだ。それでも、イントロや、随所にその片鱗を見せる編集のセンスには、後の「ブレイド」の超絶的な技巧につながる萌芽が、たしかに垣間見える。
映像作家の、個性のタッチが芽の吹くような瞬間と、その変遷ぶりに立ち会える、それもまた映画フリークの無上の喜びなのです。そんな楽しみをフル・スペックで味わえる、本作はまさに通好みの作品というべきか。