負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬はひょうきん者「スリーパー」

お願いだ!自分がおかしい存在であって欲しい

(評価 76点)

 

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スタンダップ・コメディアン出身だったウッディ・アレンは舞台に立つ前、いつも怯えながらそう念じていた。

 ウッディ・アレンのフィルモグラフィは、二つのフェーズに分けられる。スラップスティックのドタバタに終始するフェーズとドラマ性をも帯びたコメディの二つのフェーズだ。

 負け犬が大好きなのは前者の方。そして、前者の中でも負け犬の中で最上位に位置するのがこの作品だ。

 平凡な小男が、ちょっとした手術のための全身麻酔から覚めたら、そこは未来世界だった!研究所で解凍すべくコールドスリープで保存状態のアレンの顔に巻かれているのが、チキンさながらメガネの型もくっきり浮かび上がったアルミホイルで、というギャグにニンマリしたら、そこからはもう止まらない。エンディングまでこの調子で怒涛のギャグで突っ走る。

 アレンのギャグの何が好きか?と問われたら、決して笑わそうなどとしていないところと答えるだろう。負け犬にとってアレンのギャグとは自分のパーソナリティの何の衒いもないプレゼン行為に他ならない。だからたとえようもなくオカシイ。

 目覚めた未来世界は全体主義の社会。そこで異分子として追い掛け回されるアレンが、空を飛んで逃げようとプロペラで浮揚する装置を装着するが、一向に飛べないまま「クソ~絶対、こいつは日本製だ」とシリアスな顔してボヤキながら飛んだつもりで必死に走って逃げるシーンは今思い返しただけで顔がニヤける。

 傑作なのは、使用人のロボットに化けたアレンがインスタントのプディングを調理するが、調合を間違え巨大なスライムと化したそのプディングとホウキで格闘するところ。全力を尽くして巨大なプディングを引っぱたいているのだが、顔は無表情(顔を白塗りして、ポットのフタを咥えただけでロボットになりきっているつもりだから、それも当たり前だけど)なのがたまらなくオカシイ。

 ところでギャグの宝庫といっていいこの作品。昔から見ていたのに、まるで気が付かなかったギャグが実はあった。

 ダイアン・キートンと一緒に加わった反乱分子のキャンプでアレンが何かを熱に浮かされるように言うシーンがあるのです。このシーン、ギャグなのか何なのかさっぱり分らなかったのだけど、急にハタっと気付いたのだ。

 これって、エリア・カザンの超シリアスドラマ「欲望という名の電車」の中での、ヴィヴィヴィアン・リーのあの有名なプッツン演技じゃねえか!(欲望という名の電車については、めいめいでサーチして調べてもらえれば)

 そう気づいた時は腹を抱えて大爆笑していた。

 かくのごとし、アレンにとってはある意味、アンビバレンツそのものだが、本心では客がギャグを理解して笑おうが笑うまいがどーでもいいのだ。ただ頭に浮かんだインスピレーションを素直に発露しているだけなのだ。

 にしても、若い頃のアレン。何処から見ても負け犬然とした風貌ながら飄々と世間を渡って見せるその姿に、自分も随分、助けられたものなのです