負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬のサヨナラだけが人生じゃない「グッバイガール」

サヨナラばかりされているあなたに贈る応援歌!ウィットの効いたセリフ満載、素敵な主題歌が魅力のヒューマン・コメディ

(評価 78点)

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サヨナラばかりされている子連れのダンサーと売れない役者の凸凹コンビ。そんな二人がカップルに!とにかく見るとハートウォーミングになること請け合いの良作。

 日本のシチュエーションコメディの旗手といえば三谷幸喜だが、アメリカ映画となると、誰もが名前をあげるのがニール・サイモン。ブロードウェイを代表する喜劇作家である。そのニール・サイモンが当時の愛妻、マーシャ・メイソンを主役に据えて乗りに乗って描いたのが本作。

 団子っ鼻でおっちょこちょい、マーシャ・メイソンのそんなルックスが醸し出すテイストを最大限に活かしたキャラクターと、当代随一の芸達者、リチャード・ドレイファスが掛け合いを演ずるとなると面白くないわけがない。

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 とにかく二人のウィット満載の会話と、デヴィッド・ゲイツの歌う主題歌とが実にマッチした傑作コメディになっている。

 30半ばを過ぎた子連れのダンサーのポーラ(マーシャ・メイソン)が帰宅すると、恋人のトニーがいない。そこには、映画撮影のためイタリアに旅立つとのトニーの置手紙だけがポツンと置かれていた。三下り半同然のその内容にポーラは、子供がいるのも構わずオイオイと泣き崩れ・・。この、本作を牽引するアクセントといっていい存在でもある、しっかり者でクールな娘のルーシー(クィン・カミグス)が、本編通じて実にいい。

 かくして男に逃げられてばかりのポーラは、生活のためにも意を決して、再びダンサーのオーディションを受けようとするのだが、三十過ぎのたるんだ体ではままならず、途方に暮れるしかない。そして、ある雨の夜、部屋のドアをたたく音が。ドアを開けると、そこにはエリオット(リチャード・ドレイファス)と名乗るずぶ濡れの冴えない男が立っていた。

 実は、トニーはポーラたちが住む自分名義の部屋の賃借権をエリオットに譲渡してしまっていた。しかし、娘を抱えたポーラも行く当てなどない。エリオットがトニーと同じ役者と知るや部屋から締め出そうとするが、結局、一歩も譲らない両者の折衷案として、しばらくの間、共同生活をすることに。かくして男に捨てられてばかりのダンサーと、口ばかり達者の売れない役者との共同生活が始まる。

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 ニール・サイモンという名前を聞けば、少々の映画通なら、あの名作「おかしな二人」を思い浮かべるはず。つまりは、この凸凹コンビの共同生活というシチュエーションとくれば、以降は、もうニール・サイモンの独壇場となってくる。

 エリオットがニューヨークにやって来たのも、是非、出演をと乞われた、とある小劇場の「リチャード三世」を演ずる舞台で、晴れの主役を張るため。意気揚々と稽古に臨むエリオットだったが、舞台監督はリチャード三世はホモだったと言い張り、エリオットにオカマ演技を強要するくだりが、オカしい。

 元々、正統派の演技メソッドを身に着けた役者としてのプライドもあって、一気にダウナーになってしまったエリオットを見て、ことごとく反目しあっていたポーラが抱いた同情の感情が好意へと変わっていくのに、さしたる時間もかからなかった。

 そして、記念すべき初演は、批評家たちからボロカスに叩かれ、泥酔したエリオットを介抱するうち二人は恋愛関係に。

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 ポーラを演ずるマーシャ・メイソンは勿論、エリオットを演ずるリチャード・ドレイファスがとにかくいい。この二人が口八丁で、パフォーマンスするマシンガントークは、思わず見惚れてしまうほど。さらに屋上で、ボギーを気取ったエリオットとポーラが、ささやかなディナーで語り合うシーンは、見ているこちらまで癒される。

 しかし、打ち切りになったリチャード三世の後に出ていた芝居で、エリオットは有名な映画監督の目に留まり、スカウトされる。意気揚々と荷造りするエリオットを見て、悪夢の再来とばかりにポーラはすっかり絶望してしまう。

 二人がそもそも出会ったのは雨の夜。そして、素敵なラストもまた雨の夜なのだ。もうエリオットがいない、ポーラと娘の二人だけのアパート。そこに一本の電話がかかって来る。その電話の相手は何とエリオット。実は飛行機のフライトが延期され、今、アパートの近くの公衆電話からかけているという。そしてポーラが予想もしていなかった言葉。「一緒にロケに行こう!」。エリオットは二人を見捨ててはいなかったのだ。

 その言葉だけ聞いて、すっかり安心したポーラは元気にエリオットを送り出す。窓の外を見るとエリオットが乗り込んだタクシーが去っていく。デヴィッド・ゲイツが歌う本作の主題歌とともに流れるそれからのエンドクレジットの時間の心地の良いこと。

 人生には数々のサヨナラがある。でも再会を約束されたこんな暖かいサヨナラもある。だから人生は面白い。一見、ライトコメディーだけど、実はそんなことまで感じさせてくれる文句なしの秀作なのだ。