負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬の突然変異のミュータント「新幹線大爆破」

一部のスキもないスクリプト。映画の命は、やはり脚本であることを思い知る。冒頭から疾走する異様な熱気が2時間30分にわたってみなぎる。それもそのはず停まりたくても停まれないノンストップサスペンスの決定版

(評価 88点)

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停まりたくても停まれない、そんなサスペンスが作れないか?東映のプロデユーサーのそんな何気ない一言から始まった「新幹線大爆破」。ハリウッドのパニック映画に正面からガチンコ勝負を挑んで見事な戦いぶりを見せてくれる本作は、高倉健もゾッコン惚れ込んだスキのないスクリプト、脚本も絶品な、今なお日本映画のミュータントといっていい作品なのだ。

 1975年の公開当時、まだまだガキンちょだった負け犬にも、メディアが一様にこの映画に色めき立っていたのはひしひしと感じられた。後年、立派な映画小僧になって古本屋で漁っていた「キネマ旬報」の当時のバックナンバーを読むにつけ、映画業界のジヤーナリズムが本作に驚愕そのものを露わにしていた現実も目の当たりにした。

 そのメディアのリアクション通り、TV放送で自分が、実際に実物を見た時も最初に感じたのはまさしく驚きだった。そのテイストがそれまでに見た日本映画とは明らかに異質だったからだ。

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 70年代の、日本映画といえば、エログロ・ナンセンスのムーブメントにそのまま便乗し、その上に調味料としてたっぷりと日本特有のウェットな湿度をじっとりと振りまいたような作品が多かった。完全にあっけらからんとライトな今からすれば、その70年代の日本映画のウェットな湿度感が大いなる魅力の一つでもあるけれど、実際にリアルタイムでTVや映画のスクリーンからそのウェット感を照射され続けていた視聴者からすれば、少々のウンザリ感は否めなかった。

 そのウンザリ感を払拭したいがために、当時、最盛期を誇っていたハリウッドのエンタメ度120%のパニック映画に逃避していたという傾向も当時の大衆には、あったに違いない。

 ところが、この「新幹線大爆破」、とにかく最初に見た時驚いたのが、日本映画なら必ずといっていいほどあるはずのそのウェット感が全く感じられなかったこと。それまでのカラーとは何か全く違った突然変異のミュータントのような生き物を見た驚きすら感じた。

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 冒頭、北海道の列車の操車場で、後に見せしめとなる一台の機関車にプレ爆弾を仕掛けるシーンから、たたみかけるように主犯の沖田(高倉健)の爆破予告電話でいきなりこの映画は、本題に突入する。そして、たちまち本作は、決して時速80km以下には落とせない絶妙のデッドラインを走る新幹線そのままに一気に疾走する。

 あの「スピード」の元ネタとなったと誰でも言いたくなる、そんな本作をその時見た印象は、何はなくとも簡潔なプロットの展開重視、ウェット感の押しつけはひとまず置いといて、とにかく観客を楽しませることに徹するエンタメ根性。誰もがその時、口にしていたけどまさにハリウッドの上出来の娯楽作を堪能した気分に他ならない。

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 かくして、今やレジェンドとなった「新幹線大爆破」だが、その時、堪能したという意識が強くて、何故か再見することもせず、そのままが過ぎた。ところが、最近、何故かまた急に無性に見たくなり、百円レンタルのお世話になり、何十年ぶりかで再見した。

すると、どうだろう、面白さはそのまま、満腹するほど堪能させられたのに、不思議なことにイメージが少々、違っていることに気がついた。あれ程、70年代の日本映画のウェット感がないと思われた作品に、実はいい意味でその湿度感が横溢していたのだ。

 改めて見た「新幹線大爆破」。実はその実態は、突然変異にせよ、今までの日本映画独自のテイストを受け継ぎつつ、それをエンタメに昇華させた新たなるミュータントのようなものだった。

 さしずめ本作は負け犬の最後の悪あがきだ。その典型なのが、改めてハっとしたけど、まるでエンニオ・モリコーネの調べにも似た哀切に満ちたテーマ曲がいきなり流れ、主犯の沖田が登場すること。このモリコーネの曲にも似た本作のテーマ曲そのものが。本作が負け犬たちの新幹線爆破という犯行の最後の挽歌であることを如実に物語っている。

 平均時速100キロに制限され、東京から博多までのノンストップの9時間の道のりは負け犬たちの人生最後の賭けでもある。プレ爆弾から身元が割れ、新幹線の身代金の最初の受け渡しにもしくじり、次第に警察の包囲網が狭まる中、沖田の相棒の、古賀は、最後までやり抜け、俺たちは所詮、負け犬のどーしょーもない生き物だ、と沖田を鼓舞する。初見の時は、こうしたくだりがあることすら気がつかなかった。

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 爆弾の所在を、高速度撮影のキャメラの包囲網で特定は出来たが、爆弾を解除するためには、床をバーナーで焼き切る必要がある。そのための酸素ボンベを、並走するもう一台の車両から搬入するシーンのスリリングこの上ないこと。危機一髪で爆弾は解除されるが、警察と公安局の仕掛けたワナで主犯の沖田は海外逃亡を図ろうとした夜の空港で白日の下に晒される。

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 対岸にまたたく空港の灯に向って走る沖田。直後、容赦なく銃弾をあびせかけられる沖田のストップモーションは、ニュー・シネマの登場人物の末路にもダブるが、ハリウッドのエンタメの一級品にも見劣りしねえぜ!という負け犬の最後の勝利宣言にも思える。

 本作で打ち立てた、和製パニック娯楽作の金字塔というエンブレムは今後もきっと不滅なはずだ。