負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第三十六話「雪燈籠に血が燃えた」 初回放送日1973年3月17日

その切ない背中がただ白に消える

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<雪深い宿場で紋次郎が出合ったのは、幼い子供を連れるお春という女だった。亡き姉の子、秀太郎と母親との三人で暮らすお春。父親の政吉は秀太郎を身ごもらせ村からはるか昔に消えていた。父親のない子を育て、村のものたちから白い目で見られているお春に女の悲しい宿命を感じる紋次郎だったが、折しも村では奇妙な塩泥棒が横行。お春を実家まで送って来た紋次郎にも謎の脅迫めいた手紙が送られ・・> 

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 シリーズ随一の呼び声も高い、あの傑作「地蔵峠の雨に消える」でお千代を演じた宇都宮雅代がお春役で再登場。雪に閉ざされた村で青く幻想的な光を放つ雪灯籠が立ち並ぶ中、過去に傷を持つ姉の宿命をそのまま引きずり、男たちから卑しい目で見られ、決して癒されることのない女の情念を巧みに醸し出している。

 シリーズ中でもレアな雪景色の美しさが出色の本編。その宿命から村八分同然にされ、男に弄ばれるお春の薄幸さと、紋次郎の身の上にも通する両親のいない秀太郎の哀れさを、かすかに照らし出すかのような青白く光る雪燈籠のシーンが実に美しい。

 常に過去と現在が交錯する話の通り、政吉と塩泥棒の意外な接点がクライマックスで明かされる。しかし、秀太郎が無残に殺されたことから、凍てついた空気の中で最後に紋次郎の怒りが爆発する。

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 毎回、美しいラストカットの中でも本作のラストカットは特に秀逸。雪に覆われた山に分け入るように去っていく紋次郎。下手すれば凍死の危険もある。それも厭わず足取りを緩めることなく白き世界にただ消え入るように去っていく紋次郎に、ただならぬ憂愁を覚えるのは、この負け犬だけではないはずだ。