負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のハリウッド随一の超美人監督は午前0時30分に熱くなる件「ゼロ・ダーク・サーティ」

闇の中に響く乾いた銃声!ライブの赤外線映像の圧倒的な臨場感!無傷の勝利に安堵する一人の女の一筋の涙に熱くなる!実録ポリティカル・コンバット・サスペンスの傑作!(評価 84点)

アメリカ最大の賞金首ウサーマ・ビン・ラーディンを狙え!そのミッションに賭けた一人の女性CIA捜査官の苦闘。その姿はハリウッドで苦しみ抜いた超美人監督キャスリン・ビグローが自身を投影した彼女の美しき姿そのものだった!

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 この冒頭の美貌の女性、どなたかご存知でしょうか?映画フリークなら言わずと知れた本作「ゼロ・ダーク・サーティ」を監督した女性監督キャスリン・ビグローその人。そして、この写真は、その作品公開当時、「タイム」誌がその作品とキャスリンをフィーチャーしたカバーと見開きの写真なのです。更に驚くべきことに、2013年2月のこの当時のキャスリンは何と御年61才!60代でのこの美貌、信じられるでしょうか?あまりの美しさに、このフィチャー・イシューの雑誌を今もプレミアとして保存し、負け犬がシックスティーズの熟女にハマるきっかけともなった衝撃の写真なのです(笑)。

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 それはともかく、9・11の米国本土を直撃したテロ事件の首謀者で、アメリカのみならず世界最大の脅威となったウサーマ・ビン・ラーディンを、米国屈指のコンバット部隊SEALのチーム6が、タイトルともなった午前0時30分に発動した電撃作戦で見事に仕留めるまでの顛末を描く本作。まずは、この硬派の題材ながら2時間37分の長尺を、クライマックスのミッション遂行に至るまで片時も飽きさせず、エンディングで、主役の捜査官マヤ(ジェシカ。チャステイン)の涙でエモーショナルに締めくくる、熱いポリティカル・サスペンスに仕立て上げたキャスリンに拍手を送りたい。

 そしてこの作品は、1982年の古の大昔からこの2013年公開のこの作品に至るまで映画を作り続けながら、ただの一本もヒット作がないどころか、ほとんど全てが赤字の作品だった、キャスリンが、そのキャリアの中で初めて手にしたボックスオフィスのヒット作だった。

 別に威張ることではないが、負け犬は今思えば、このキャスリン・ビグローの追っかけをやって来たかのように過去の作品をほぼ網羅して見ている。

 まずはデビュー作となった1982年の「ラブレス」。50年代のバイカーたちの文化を題材にしたこの作品で、名優ウィレム・デフォーが注目を集め、ウォルター・ヒルのあの名作「ストリートオブファイアー」に起用された。自主製作映画といってもいいほどのスモール・スケールの映画だが、これもしっかり負け犬はレンタルビデオで見ている(巷にDVDが溢れかえっている現在から見ても、レンタルビデオの全盛期には驚くほどの多様な作品が小さなレンタル屋には置かれていた)。

 この比較的、目立たないデビュー作を経て、次に本格的なスタジオ映画として作ったのが、今でもカルト・ホラーとして名高い、そして負け犬も大好きな「ニア・ダーク/月夜の出来事」。ワイルドなアクションものとヴァンパイアホラーとを巧みにジャンルミックスさせたエリック・レッドの脚本も秀逸な傑作だったが、興行的には大コケ。ある意味、美人監督キャスリンのしくじり人生は、ここから華々しく始まったと言っていい。

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 次に放ったのが、「ハロウィーン」のジェイミー・リー・カーティス主演のコップもの「ブルー・スティール」。実はこの作品が、負け犬のキャスリン初体験だった。当時、飛び切りの美人監督として急上昇していたそのネーム・ヴアリューに釣られ、いそいそと劇場に出かけて見た作品だった。女性監督とは思えない骨太のアクション演出にも驚かされたが、パンフレットに載っていたキャスリンのその美貌にはもっと驚かされた作品でもある。しかし、この作品も興行的には完全なる失敗作。

 だが、その才気をハリウッドが見逃すはずもなく、遂にキャスリンに大作のオファーがやって来る。それがデビュー間もなかったキアヌ・リーヴスとパトリック・スエイジという二大スターを配したビッグ・バジェットの「ハート・ブルー」。そして、この作品で接点をもつことになるのがあのジェームズ・キャメロンだった。

 キャメロンによる、もしも警官がサーファーになって潜入捜査をしたらという「ジョニー・ユタ」というタイトルの軽いノリで書かれた初期の脚本を基にした本作だったが、二大スターのネーム・ヴァリューから超大ヒットを見込んでいたスタジオの期待を裏切って、前二作のような赤字にはならなかったものの、本作もまた小ヒットにとどまる。

 だが、本作が縁になってキャスリンはジェームズ・キャメロンと結婚。力強い伴侶を得てキャスリンの運も上昇するかに思われたが、実はこのキャメロンという旦那がキャスリンのキャリアを文字通りぶち壊す男になってしまう。

 1995年、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったクェンティン・タランティーノを多分に意識してジェームズ・キャメロンは一本の脚本を書き上げる。それが、タランティーノばりのノワールものに、ヴァーチャル・リアリティのSFを合体させた「ストレンジ・デイズ」だった。ジャンルミックスはいいけれど、ノワールにSF、それに当時、世間を騒然とさせていた2000年問題から、警官による黒人暴行事件といったアクチュアルイベントまで盛り込んだ、明らかに独りよがりで詰め込みすぎのこの出来の悪い脚本の監督を、キャスリンは任されてしまう。ある意味、仕事のなかったキャスリンにとっては、旦那の七光りでお鉢が回ってきたチャンスとも言えたが、この作品がハリウッド史に残るほどの大赤字になってしまう。

 このとんでもない大失敗を経て、14年もの歳月を経て、ようやくあの「ハート・ロッカー」で、アカデミー史上初の女性監督賞の栄冠に輝いたのはご存知の通り。だが、アカデミー作品賞のネーム・ヴァリューもかなわず、世界的には何とかヒットにはなったものの、米国内ではこの作品すらようやく製作費が回収出来た程度のヒットでしかなかったのだ。

 そんな紆余曲折を経た本作「ゼロ・ダーク・サーティ」は、漆黒の画面に9.11のライブ音声が流れるところから始まる。開巻早々、展開されるのがCIAのエージェントによるテロリストへの拷問シーン。見るのがちょっと過酷なほどのこのシーンは、真偽のほどはともかくとして、CIAや政府当局から猛烈なバッシングを受けたのも頷ける。この暴行を目の当たりにするのが本作の主役の女性捜査官マヤ。

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 本作成功の要因は、様々な困難にぶち当たりながらも、アグレッシブにビン・ラディンの捕獲という、困難なミッションに立ち向かっていく主役にこの女性捜査官マヤというフィクショナルなキャラクターを設定したことに他ならない。硬派の題材でもこの華奢な女性視点から作品に没入することで、エモーショナルなカタルシスが生み出されるからだ。

 本作の圧巻は、何といってもクライマックスのビン・ラディンの隠れ家の襲撃シーンのそのライブ感。まるでそこに自分が居合わせているかのような、そのリアリティと実況感のスゴさは、体感してみなければ分からないほど。

 実にいいのが、このシークェンスにおける銃声のリアリティ。ハリウッド映画に良くある轟音のような発射音ではない、あくまでもパシッという渇いた音、そしてそれに続く、排出された薬莢が落ちる克明な音。また、それに加えて、ほぼ全編、ダークといっていいこのシークェンスにインサートされる赤外線映像が抜群な効果を発揮している。こうしたディテールにキャスリンのこだわりがひしひしと感じられる。

 そして、たった一人の犠牲者も出すことなくミッションを完遂させたその翌朝、巨大な軍用ヘリの格納庫にたった一人座るマヤが家路に着く。その時、燃え尽きたかのようなマヤが流すのが一筋の涙なのだ。このシーン、負け犬にはこのマヤの姿が、30年の長きにわたって映画作りを続けてきたキャスリンの姿にダブって仕方がない。

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 そして、ボックスオフィス初登場首位の好スタートをきった本作は、本人が待ち望んだブロックバスター級の大ヒット作となる。

 普通なら、任された監督作が赤字になれば、その一本で監督としてのキャリアは終わる。そのハリウッドの厳しい掟の中をキャスリンは、図らずもその美貌で乗り切ってきた。映画のラストにマヤが流した涙はキャスリンその人が流した涙そのものではないのだろうか。

 いよいよ70代に突入しようというキャスリンだけど、未だにちょっと近寄りがたいような美しさも(ガン・マニアとしても有名だから迂闊に近寄ったらケガをする)健在のそのクールビューティぶりを発揮して、エイジレスな活躍を今後も期待したいものですね!