負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の狂気のスナイパーは大群衆に燃える「パニックインスタジアム」

サスペンスとパニック映画、どちらの醍醐味も存分に味わえるマルチジャンルなエンタメ良品(評価 72点)

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 開巻、たちまち響く一発の銃声。スナイパーがスコープ越しに捉えたのは、連れ立って自転車でツーリングする一組の夫婦だった。そのまま倒れこみ、血に染まった夫を見て悲鳴を上げる妻を横目に、冷徹にライフルを解体するスナイパーをキャメラは一人称の主観ショットで捉え続ける。そして、次にスナイパーが向かったのは、チャンピオンシップを見るため続々と観衆が集まりつつある、爆発寸前の熱気を孕んだ、アメリカンフットボールのスタジアムだった!

 如何にもサイコパスなスナイパーの行動を黙々と捉えるサスペンス調のイントロから、スタジアムにフレームインするや一転して、キャラクターが入れ代わり立ち代わり描かれるグランドホテル形式になり、その中の一人にあのチャールトン・ヘストンが登場とくれば、これはもう立派なパニック大作、というわけで、サスペンスの醍醐味とパニック映画の醍醐味がどちらも存分に味わえる本作。

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 今ではマルチジャンル・ムービーというのは珍しくもなくなったが、1977年公開の本作は、そのマルチジャンル・ムービーの先駆的作品と言えようか。それに加えて本作は、映画やTVでもお馴染みの警察組織の狙撃部隊のSWATに初めてスポットが当てられた作品としても有名。

 とにかく本作は、この負け犬も大好きな社会派サスペンスの傑作「ある戦慄」でも出色だった監督のラリー・ピアースならではのドライでクールなタッチから、終盤に至って一気に、ハリウッド大作パニック映画本来の見せ場たる怒涛のクライマックスへと打って変わるそのメリハリの転調が最大の魅力。

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 そして、本作におけるパニックのトリガーとは、ずばり大群衆。スタジアムのメモリアルの高台に身を潜め、警察陣の一行が、時限爆弾を見守るが如く、リモートで監視していたスナイパーが、試合の後半の2分間のタイムアウトに、いよいよ超満員の大観衆に向って、無差別射撃を開始。その瞬間、堰を切ったように群れを成して右往左往して狂ったように超満員の観衆が逃げ回る怒涛のモブシーンは、ただ圧巻としか言いようがないほど凄まじい。何度見ても、よくぞこれだけの数、そして本気モードで逃げ惑うエキストラをかき集めたものだと感心する。

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 ヘストン演ずる警部のホリーとSWATのクリス(ジョン・カサベテス)の決死の突入で、ようやく仕留めた犯人が結局、動機も明かされぬまま絶命する無常観に、社会派ならではの監督ラリー・ピアースのタッチが冴える・・・と思っていたら、実は本作、本国米国でTV放映の際には、この射撃の犯行自体が、スタジアムの近辺で行われていた美術品強奪犯人たちが計画した陽動作戦だったことが明かされる1時間ものシーンが追加された特別バージョンで放送されたというから驚く。

 本編通じて犯人の行動は常に犯人の主観ショットで描かれる、だから犯人はサイコパスで、犯行自体、無差別犯罪だと誰もが思う、だとすればこの展開は、一種のどんでん返しだと言えなくもない。そちらのTV版も怖いもの見たさでいつか見たいものですよね~