負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のあの木枯し紋次郎が三船敏郎と対決する!ゴージャスでクレイジーなサムライワールド「最後のサムライ/ザ・チャレンジ」

用心棒の三船敏郎木枯し紋次郎中村敦夫が、ガチでチャンバラ対決するドリームマッチはフジヤマ、ゲイシャなニッポンのキッチュそのものの異世界だった

(評価 70点)

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ベールを脱ぐ国辱映画

 国辱映画。かつてのジャパン・アズ・ナンバーワンの日本ならいざ知らず、すっかりプライドも何もない貧困大国となった日本で今更、国辱も何もない気もするが、その昔、愛読していた「スターログ」という雑誌の隅っこに国辱映画と、その記事の筆者に恫喝されていたのが本作。確かに、外人が日本刀を振りかぶる、如何にもトンチンカンなテイストのそのポスターには、国辱的な臭いがプンプンに漂っていた。その上、監督が巨匠のジョン・フランケンハイマーとくれば、一体、日本をネタに巨匠が何をやらかしたのか、と、それ以来、ずっとこの映画の存在が気になっていた。そして。それから何と、ン十年もの時を超え、遂に本作と巡り合った次第。ようやく負け犬的な記憶のベールを脱いだ国辱映画の実態とは!

 

用心棒vs木枯し紋次郎

 西洋から見たニッポンを描いた映画は数々あるが、一様に言えるのが、どれもこれもネジが外れてピントがあっていないところ。しかし、この負け犬は、たとえばあの高倉健さんの「ザ・ヤクザ」なんかが何故か大好きなのだ。負け犬からすれば、それらの映画が、ニッポンの見慣れた風景が、外人のフィルターを通し、どこかキッチュなテイストに切り取られ、別世界を思わせるファンタジーを感じてしまうからに他ならない。

 一見、国辱映画と罵倒されておかしくはない本作だが、国辱も何のその、負け犬にとっての本作は、まるで異世界をドリフトするような感覚すら催すほどの奇怪で素敵な作品だった。何はともあれ、ラストにはあの用心棒の三船敏郎木枯し紋次郎のボーナス・マテリアルの見せ場まであるとくれば、これはもうある意味、お宝映画といってもいい、そんなキッチュな怪作が本作だ。

 

トンチンカンが爆発するサムライワールド

 ただし、本作が、キッチュでポップなだけとは片付けがたいほど奇怪なのもまた確か。オープニングはいきなり1945年の京都。ある神社で、三船敏郎中村敦夫吉田兄弟が見守る中、古くから吉田家の家系に伝わる伝家の宝刀が、吉田の家老からその孫に授ける儀式が行われている。というわけで、長髪のカツラを被った三船敏郎が出てくる、のっけのファーストカットからもう嬉しくなるほど、負け犬大好物のトンチンカンな気配がプンプン漂っている。

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 そして孫にその宝刀が授けられた瞬間、中村敦夫扮するヒデオが、駆け出してその宝刀を奪い、そのはずみも加わり孫の背中に刀が振り下ろされ、無残にも幼い孫は血に染まり、たちまち起こる乱闘、そして話はいきなり現代のロスアンゼルスへ。

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 このプロローグ通り、本作が終始するのはこの宝刀をめぐる吉田家の三船敏郎の兄と、中村敦夫の弟ヒデオとの、武士の誇りを賭けた戦いなのだ。そして主役のリックを演ずるのがスコット・グレン。この何故かグループ・サウンズを思わせるおかっぱ頭のスコット・グレンが、日本にこの宝刀を運ぶデリバリーマンとして雇われ、京都の地で何故か武士になるための修行に励むというのが本編なのだ。

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 やがて伊丹空港に降り立ったリックは謎の組織に追われ、魚市場を逃げ回った挙句、腹を刺されたところを助けられ、今は三船が家長をつとめる道場に辿り着く。最初はスパイがてら、宝刀目当てに道場に潜り込んでいたリックも吉田の武士道精神に感化され、いつしか本気で武士を目指すことに・・・とトンチンカン・パワーが全編に炸裂する本作。とにかく長髪のカツラを被った三船が出ずっぱりなのは宣伝文句に偽りなしといったところ。

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 加えて、本作に顕著なのは、高倉健のカルト作「ザ・ヤクザ」との共通点。宝刀を兄の三船から奪い取ろうとする中村敦夫扮するヒデオが、アジトの基地にしているのが、あの京都の国際会館。「ザ・ヤクザ」でも高倉健さん扮するケンの兄が拠点にしていたのが、やっぱり京都国際会館だった。更に全編にわたる京都ロケが印象的な本作のキャメラもまた「ザ・ヤクザ」と同じ岡崎宏三と、デラックスカラーという形容がふさわしい鮮烈なルックスもそっくり似通った、まさに厚い絆で結ばれた義兄弟と言ってもいい。

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 そして、最後には、お目当ての、この国際会館に、三船とニックが殴り込みを仕掛けるクライマックスが待っている。ここで繰り広げられるのがまさにドリームマッチの用心棒VS木枯し紋次郎。三船と中村敦夫のチャンバラ。

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 この二大俳優のチャンバラから、銃撃を受けて負傷した三船に代わって助太刀するリックと中村敦夫とのチャンバラになだれ込んでいくくだりの、キメの細かいアクション演出は実に見もの。全編にわたってトンチンカンだった本作が、ここで、打って変わったように目の覚めるアクション映画に変容するさまは圧巻だ。

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トシロー・ミフネのしくじり人生

 1970年代の後半、日本が誇る国際的大スターの三船敏郎は地団駄踏んで悔しがっていた。それというのもハリウッドからオファーされたある映画の出演依頼をにべもなく断ってしまったから。その映画こそ、映画におけるフランチャイズパラダイムを根底から塗り替えたあの「スターウォーズ」。

 三船は、実はあのアレック・ギネスが演じたオビ・ワン・ケノビの役をルーカスからオファーされていた。しかし、安っぽいSF映画で見世物パンダになるのはお断りだと言わんばかりにこのオファーを蹴っていた。悔しがっても後の祭り。

 この後、社長を務める三船プロの経営難もあって、三船はハリウッドからオファーされる依頼を来るものは拒まずのスタンスで受け続ける。

 中には本当に客寄せパンダ扱いのものもあって、本作もいわばそんなやっつけの一本なのだが、「スターウォーズ」で三船が犯したとんでもないしくじりのおかげで、中村敦夫とのチャンバラを目撃することが出来たわけだから、この作品は、いわばそんな三船のしくじりが産み落とした望外のプレゼントといってもいい。

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 いずれにせよハリウッド映画に描かれたヘンテコなニッポンが自虐的に大好きなこの負け犬のような映画フリークにとっては、この「最後のサムライ/ザ・チャレンジ(原題THE CHALLEMGE)」は、見逃せない作品であることは確かですぜ!

 

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