負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんのシンクロさせたい気持ちは分かるけどどうにもシンクロしきれなくてシンクロナイズドスイミングをただ遠巻きに見ただけで終わっちゃった感ありありだった件「パシフィックリム」

巨大ロボと怪獣の対決をあのデル・トロがブロックバスター級のスケールで描く。誰もが心を躍らせた企画だったのに、肝心の怪獣に個性がないのが致命的だった。

(評価 60点)

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自他ともにオタクと認めるデル・トロがそのオタク魂の全てをそそぎ込んだ渾身の一作、ところが、本来なら手放しの傑作となるはずの作品がどーしてこーなったのか。

 おそらく、デル・トロもただロボットが怪獣と戦うだけの企画なら参画するはずはなかった。デル・トロが動いたのも本作の肝、ドリフトというアイデア

 海外でも有名な日本が誇る「マジンガーZ」。ロボットの頭部自体が、人間が操縦するビークルになっていて、というのはそのマジンガーからの拝借だが、本作独自のユニークな点は、そもそもロボットのパイロットが一人ではなく、人間の脳の右半球、左半球がごとく二人のパイロットがタッグを組んで巨大ロボットをコントロールするところ。ドリフトというのはその際、二人の意識をお互い融合させて一心同体になって戦うスキルなのだ。

 トレーニングジムのマシンに合体したような二人が呼吸を合わせてノッシノッシと歩き出せばロボもそれに合わせて歩き出す。パイロットがパンチを繰り出せば、ロボットも怪獣をブン殴る。これは、なるほど、その一挙手一投足につられてこちらがシンクロして動き出してしまうほどのヴァーチャルな一体感が確かにある。

 それに加えて2億ドルに及ぶ製作費を注ぎ込んだ圧巻のCGも見ごたえ十分。エンタメとしては申し分のない出来栄えといえる。デル・トロとしても制作会社のレジェンダリーとしても本作でブチ上げて、トランスフォーマーにも匹敵するフランチャイズにしたかったのは間違いない。

 ところが、本作、これだけの条件が揃えば熱くたぎって仕方ないはずなのに、どこかたぎらせてくれないもどかしさが冒頭からついてまわる。

 クールジャパンの怪獣文化を持ち上げて怪獣をちゃんと“怪獣”と言ってくれるのは嬉しい。しかし、以降、わんさか出てくる怪獣たちのどれがどれなのか、まったく見分けがつかない。怪獣と言いつつ、ただのモンスターと何も変わらない。怪獣とモンスターって同じじゃね?などとヤボなことを言うのは日本人にはいないはず。少なくともピアノ線で吊られたビートルが空を飛び、着ぐるみ同士のバトルが原体験にある怪獣スピリッツを宿している世代なら、この戸惑いの感覚は分かっていただけるのではないでしょうか。要は怪獣とはソフビ人形を買いたくなる個性なのだといいたい。

 加えて本作の誰が見ても一目瞭然の最大の欠点は、怪獣に立ち向かうジプシー他のロボットのデザインにまったくもって魅力がないところ。サンダーバードに2号が無けりゃスカなのと同じ、スターウォーズにXウィングが出てこなきゃ見た気がしないのと同じ。ガジェット本位の作品にはカリスマ的ビジュアルを持つメカが必須だ。エンドクレジットではわざわざフィギュアフランチャイズにまで目配せしてジプシーや怪獣のフィギュアが出てくる。でも、一体、本作を見てそのフィギュアを買おうなんていう人がいるのだろうか。

さらに個人的にどうにも耐えられないのが、マコ役の菊池凛子。この人、日本人としてハリウッドで孤軍奮闘してキャリアをビルドアップしてきたのは分かる、しかし、女優としての魅力は全くない。この人が画面に出てくるたびに気分が萎えてくるのはこの負け犬だけでしょうか?

などとケナし続けてはいるが、本作は決してつまらないわけではない。それどころかエンタメ映画のクラフトワーカーとしてのデル・トロの腕前には舌を巻くしかない面白さであることは確か。ただのバトルだけではなく、きっちりと兄弟愛でまず観客を掴み、司令官のスタッカー(イドリス・エルバ)による「愛と青春の旅立ち」的な教官もののドラマを交え、ローリー(チャーリー・ハナム)とマコの成長をしっかりと踏まえることで、エモーショナルなボルテージを高めていく手法には素直に感情移入できる。

また環太平洋防衛軍だけではなく、怪獣の臓器ブローカー、ハンニバルロン・パールマン)とのやりとりもマルチアングルで描くことで、映画自体のボリューム感や厚みがグンと増し、鑑賞後にはそれなりの満足感は確実に味わえることも確か。

レジェンダリーの思惑はハズれたものの根強い人気はあるようで何とか「パシフィックリム・アップライジング」は作られたものの、おそらくこのフランチャイズは消滅した。

しかし、デル・トロはその後も旺盛に創作は続け見事に「シェイプ・オブ・ウォーター」でオスカーを射止めた。本作のエンドクレジット後のエピローグカットにはデル・トロの盟友ハンニバル役のロン・パールマンがちゃんと笑わせて締めてくれる。負け犬としては、あの幻のように消えた「ヘルボーイ」の三部作の最終作をいつの日か、またデル・トロがロン・パールマンと組んで作ってくれることを切に願うばかりなのですよ~