負け犬さんのメキシコからハリウッドにやって来た怪童がいきなり遺憾なく実力を発揮していてビックリしたなあ~もうという件「ミミック」
みんな大好きボクも大好き、やんちゃな映画小僧ギレルモ・デル・トロ。そんな愛すべき怪童のハリウッドデビュー作はやっぱりスゴかった
(評価 74点)
負け犬が所有する本作のDVD、実を言うと10数年近くもDVDボックスに眠ったままになっていた。そもそも、「ブレイド2」に仰天し、その時、初めてギレルモ・デル・トロの存在を知った。それから間もなく本作「ミミック」が、その気になる男のハリウッドデビュー作であることをどこかで聞きつけ購入したものだったと記憶する。
しかし、購入時に見た時は、つまらなかったんですよね~これが・・。そのためあえなくDVDボックスの奥底に撃沈したという次第。
かくして20年近くの月日が流れ、その間にデル・トロも数々の作品をモノにし、アカデミー賞の座にも登りつめ堂々たる監督になった。でも、デル・トロはリスペクトというよりやっぱり愛すべき監督でいつも気になる存在だ。というわけでフトした拍子にこの作品のことを思い出し、沈没したサルベージ船を引き上げるが如く再び本作を見た次第。
ところが何と何と、20年前の印象は一体何だったんだという位、面白かったのですよ今回は・・何故だろう?思えば今は、その屈託のないキャラクターも知っている。そして、つとに有名になった、デル・トロが自作の構想を自由奔放に書き付けるスクラップブックとでもいうべきデル・トロ・ノートの存在も知っている。映画を作るクリエイターの人となりを良く知った今の目で見てみると、本作がデル・トロの合言葉ともいうべきキー・ワードに満ち満ちた映画であることに改めて開眼させられた。
まず第一のキー・ワード何といってもクリーチャー。それも本作、思いっきり虫にベクトルを振り切っています(多分、虫フォビアの人はいきなり脱落するでしょう)次いでゴシックテイスト、グロテスクな描写、エグイ内臓、地下の迷宮にと、挙げていけばキリがないくらい。
お話しはといえば、子供たちが侵される伝染病が蔓延、昆虫学者のスーザンはDNA操作で新種を創成し捕食者として利用することで、そのウィルスの媒介源のゴキブリを駆逐しようとする。作戦は成功し、事態は沈静化するが、その新種は地下で密かにミューテーションを繰返していた。かつて「ユダの血統」と名付けられたその新種は、やがて人間もどきに擬態する術まで身に付け、人々を襲い始める、とまあドン引きするくらいのベタなパニックホラーの王道。
しかし、デル・トロは、ハリウッドデビューの気負いなど微塵も感じさせず、この王道を実にのびのびと、また時には、熟年の職人を思わせる巧みさで突き進む。
本作、ベタなパニック・ホラーのせいか、登場人物もやたらと多い。しかし、程よく描き分けられ整理されたその人物たちが中盤以降、地下鉄に集結し、後半は「ブレイド2」にも出て来た迷宮のようなその地下鉄の構内で新種相手のサバイバルを繰り広げることになる。
前半、人間もどきに擬態したその姿が、まるで無声映画の「吸血鬼ノスフェラトウ」を思わせるようなシルエットとしてしか描かれなかった「ユダの血統」が、中盤、地下鉄の駅のホームでいよいよスーザンの眼前で昆虫の姿にメタモルフォーズする。そして、スーザンを襲ってそのままその身体を鷲掴みにし飛び去るシーン。ここなどさぞかしデル・トロが嬉々として作っていたんじやないかと、見ていて嬉しくなったりもした。(この時点ではまだCG技術はローテクの域を出ていなかったはずだが、本作の、ミニチュアも巧みに組み合わせたCGは今見てもまったく遜色がない)
今回見て、そのフォーマットをハリウッドのベタなパニックホラーの型に敢えてはめながらも(おそらく20年前は定型的にしか感じられなかったからツマらなく感じたのではなかろうか)自分のテイストをふんだんに盛り込みキッチリと落としどころをエンタメに据えているところに実に感心した。やはりメキシコの怪童はただ者じゃなかった。
最後に、本作、クレジットタイトルからもロブ・ボーティンを始め、錚々たる面子と数のスタッフたちがクリーチャーの造型に関わっていることが分る。おそらくデル・トロはここでもあの構想ノートにそのデザインの数々をイタズラっぽい目をキラキラさせて夢中になって描いていたのかもしれない。
いつだって、そしてこれからもずっとデル・トロは我らが愛すべきクリーチャーなのだから。