負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬も好き放題に生きてみたい「キル・ビルVOL1」

自分の好きな事を好き放題にやってみたい!そんな願望をハリウッドの悪童が叶えてみせた、サブカルチャーの玉手箱!

(評価 84点)

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自分の好きな事を自分のやりたい放題に出来たらどんなに楽しいだろう、それも、自分の懐を傷めずに、他人が出してくれたお金を湯水のようにふんだんに使って!しかし、それをやってのけるには、とんでもないほどバカでかい度胸が必要だ。そして、それほどの度胸を持ち合わせている人間はこの世に僅かしかいないのだ。

 マカロニウエスタンにチャンバラ映画、TVドラマに怪獣プロレス、忍者にカンフー、ヤクザに姐さん、日本刀に空飛ぶギロチン。そして、世界に冠たるジャパニメーションの最先端。ガキの頃からTVとマンガ、それに映画にどっぷりと浸かりきった人間の、脳内の妄想を全て吐き出したかのようなガラクタ同然のサブカルチャーのオモチャ箱。

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 本作の公開時、ネットのレビューが燃えていたのを憶えている。燃えるといっても、それはほぼ炎上と言っていい。おそらく本作の宣伝を見て、誰もがウエルメイドなハリウッドのアクション映画を想像したに違いない。しかし、劇場の座席についた観客が見せられたのは、ウエルメイドとはかけ離れた、ホーム・ムービー同然の極私的自己満足映画だったからだ。

 イントロのマカロニ・テイストから始まって、ガールズ同士のコンバット。特撮丸出しの夕焼けの空をバックに、飛行機で向かったオキナワには服部半蔵。その服部と珍妙きわまりない日本語で、ブライドがウンター越しに語り合い、名人直伝の日本刀を抱え、向かった東京の青葉屋での大立回り。エンディングには修羅雪姫が恨み節のド演歌を朗々と歌い上げる。

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 おそらく、まともな感性を持つ大半の観客は、腰を抜かした挙句に、金返せ!まずは、そう叫んだ違いない。その証拠に、ネットには、その手のクレーム同然のレビューがひしめき合っていた。中には、こんなクソ映画、テメエの家だけで見ておけや!と殴り書き同然にしたためて、監督のタランティーノをガイキチ扱いするものすらあった。果たして、こうしたレビュアーさんたちの意見は、何はともあれ全て正しい。はっきり言ってこの映画は滅茶苦茶だ、

 実はこの映画、そもそも公開されるはるか前から、映画の撮影用スクリプト専門のサイトに、その脚本がUPされていた。この負け犬も、そのスクリプトをダウンロードして、既に読んでいた。そして、その時、既に唖然としていた。それが映画の脚本というより、何もかもがもうマンガそのものだったからだ。

 そして、映画が公開され、賛否両論渦巻く中、いそいそと劇場に行って実物を見た時は、矢も楯もたまらずパンフレットを買い求め、今も、その美麗なパンフレットは家宝のようにして大切に保存している。

 鑑賞後の最初の感想は、何だか妙に嬉しかったことを憶えている。おそらく映画の大半を占めるサブカルの元ネタが日本のガラクタ文化の数々だったこと、そしてそれらに対する惜しみないリスペクトがストレートにこちらに伝わって、何処か日本人である自分が褒められたような気になったからだったのかもしれない。そして、暫くしてから痛感したのが、タランティーノという男の底が知れないほどの度胸の大きさだ。

 というのも、この手の映画を作るとして、普通の人間なら、どこかで怯んでしまわないだろうか。莫大な予算を投じて作る映画に、自分の好みばかりブチ込んで、それでビジネスとして成り立つか?そんな計算が働きはしないか。そして、結局、いらぬバランス感覚を働かせ遠慮する結果になりはしないか。

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 でも、タランティーノは違う。好きなものは好き。誰に何の遠慮することもなく、それを臆面もなく言ってのける。そして、映画そのものを思う存分、自分の好きなもので埋め尽くしてみせる。本作を見るたびに思うのは、何の衒いもなく好きなものを好きと言ってはばからないナイーブな感性だ。

 デザインも抜群にイカす、負け犬所有の「キル・ビル」のパンフレットには、これでもかとばかりに、タランティーノの”好き”が並べ立てられている。千葉ちゃん主演のTVシリーズ「影の軍団」(タラちゃんは、本作を第4シリーズまで全てビデオ録画した)、そして、「子連れ狼/三途の川の乳母車」、更には、言うに及ばず「燃えよカンフー」、まだまだ「吸血鬼ゴケミドロ」、「片腕ドラゴン」、」「柳生一族の陰謀」、そして「マッハGO GO GO」に「BLOOD THE LAST VAMPIRE」、等々、書きだしたら永遠に続く程に終わりがない。

 人間、大人になれば、子供の頃のナイーブな感性がすり減って、好きなものを好きというのに然るべき勇気が伴うもの、そこで好きと言えるか言えないかで、人間の度量のようなものが試されるとしたら、タランティーノという監督は、バカデカイ度胸の持ち主なのでしょう。その証拠に、賛否両論などどこ吹く風とばかりに、ハリウッドを掻きまわす怪童は今も、世間を騒然とさせる映画を作り続けているのだから。