負け犬的映画偏愛録

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負け犬カップルの淫靡な末路「赤い航路」

羞恥プレイにSMごっこ、遂には放尿プレイまで、一組のカップルが見せつける淫靡な関係の末路は哀しかった

(評価 80点)

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人間がその欲望のままに淫らな行為に埋没し、それをやり尽くした時、最後に残るのは何なのだろう。文学的でもありながら、猥褻な三文小説の俗っぽさも併せ持つポランスキーならではのエロスの世界。

 物語というものは、一体、この世の中のいつどこで、どのようにして生まれたのだろう。そのルーツたるもの、語り部が人に何かを語って聞かせることが起源だったことは、おそらく間違いない。きっと、その習性が本能として刷り込まれているのだろう、だから、人間は、物語というものに惹きつけられ、その耳を傾けてしまうのだ。

 そして、聞きたくもないのに必ず人がいやでも聞き耳を立ててしまう物語のジャンルというものがある。猥談である、人間の口から直接語られる、いやらしい淫らな物語の魅力に人間というものは抗えないものなのだ。

 本作はまさにその猥談の世界。三色刷りの淫らな挿絵がふんだんに盛り込まれたエロ小説、どこかグロテスクな怪奇さをも漂わせる江戸川乱歩の世界そのもの。

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 地中海をクルージングする豪華客船で、インテリジェントなナイジェル(ヒュー・グラント)とフィオナ(クリスティン・スコット・トーマス)の夫婦が出合ったのは車椅子の中年男オスカー(ピーター・コヨーテ)と若妻のミミ(エマニュエル・セニエ)の不釣り合いなカップルだった。出会った瞬間から妖艶なミミに惹かれるナイジエル。その夜、夫のオスカーと出くわしたナイジェルは、客室に誘われるまま、オスカーが夜な夜な語り出す妻のミミとの事の成り行きに耳を傾ける羽目になる。

 オスカーが語り部となって、事の次第を語るスタイルの本作は、この導入部が抜群に上手い。オスカーが語り始めるや劇中のナイジェルのみならず我々も、オスカーが語る世にもいやらしく奇妙なその話の虜となっていく。まさにこれこそ監督のロマン・ポランスキーの持ち味、ポランスキー演出の妙味に他ならない。

 整形外科医として財を成した父親の遺産を相続し、小説家を目指すと称してパリで悠々自適の暮らしをしていたオスカーが、たまたま行きずりで出会い恋に落ちたのが、まだ年端もいかないミミだった。そもそもブルジョワなオスカーがミミに惹かれたのも、そのあどけなくも庶民的な、ある意味どこかだらしがない、下世話なところだった。

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 そして二人は、オスカーの閉ざされた部屋で、二人だけの淫靡きわまりない世界に没入していく。常に閉ざされた空間をどこかでモチーフにしてきたポランスキーがその本領を発揮するのは、まさにここから。誰にも邪魔されることのない二人だけの空間で思う存分、二人が繰り広げる痴態のそのいやらしいことたるや、特に、牛乳を口に含んだミミがそれを口から吐き出し、白濁液にまみれた胸をオスカーに舐めさせるシーンのエロいこと。そして、きわめつけは、プレイをやり尽くして倦怠感が漂い始めたオスカーの目の前でミミが開脚してオスカーの顔に放尿する。その様子を語って聞かせるオスカーの話に、逃げ出したくなりながらも、嫌悪感を露わにしつつ興奮して話を聞き続けるナイジェルの姿は、我々、観客の姿そのものなのだ。

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 夜毎繰り返される世にも淫靡なアラビアン・ナイトは、やがてグロテスクな様相を帯び始める。ミミとのプレイにいよいよ飽きたオスカーはミミを拒絶し冷淡な仕打ちで、数多い女遍歴の一歴史として葬り去ろうとする。その残虐なオスカーの傲慢なやり口で、オスカーの目の前から一旦は消えたミミだったが、オスカーが交通事故に遭い、入院していたその病床に再び現れる。

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 エロスの果ての因果応報の残酷劇。その挙句、腐れ縁のまさにその傷口を舐め合うようにして離れがたきカップルとなった二人の末路は、客船のクルーズのクライマックス、エイティーズのヒット・ソングが流れるさんざめくボール・ルームでの年越しのダンス・パーティの最中に訪れる。

 辺境の淵を見た男と女が、辿る末路がどんなものかは、是非、ご自分の目で確かめていただきたいのです。ただのエロ目当てに見て見たら、映画が持つ物語を語る魅力を再発見させられた本作。一見に価する傑作なのです。