負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬少女は超能力者「キャリー」

ブライアン・デ・パルマという人の存在が自分の映画遍歴の中でいかに大きいか改めて知った。

(評価 80点)

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ブライアン・デ・パルマを初めて知ったのがこの「キャリー」だった。当時、本国でスマッシュヒットしたホラーがいくつかあって、日本ではこの「キャリー」とそれらの作品がセットで宣伝されていた。やっぱり、話題になっていたのは、ショッキングなエンディング。でも当時は特にそそられることもなく、確か月曜ロードショーで初放送された時に鑑賞はしたが、結構、面白いねといった程度だった(でも、さすがにエンディングでは飛び上がったけど)。

 デ・パルマを本格的に映像作家として意識し、自分の映画遍歴を通じて多かれ少なかれ追っかけをするようになったのは「殺しのドレス」からだった。そして「ミッドナイトクロス」で完全にハートを奪われる。それ以降は、このデ・パルマという人が今に至っても自分の頭のどこかにずっと住み続けている。

 そういうこともあってこの「キャリー」だけは何故か初見以来、永らく見ていなかった。ここへきてデ・パルマの過去作を思い出し、つい最近、また見たのだが・・・まさか、これほどの傑作だったとは!

 導入部のお馴染みのピノ・ドナッジオの音楽にスローモーションといったシャワーシーンの巧みさから目を奪われる。キャリー(シシー・スペイセク)に初潮が訪れクラスメイトたちにバッシングを浴びるシーンだ。キャリーの名をキャシーと言い続ける、まるでその存在に無関心な校長を始め、キャリーは、クラスはおろか学校という組織で完全に孤立している。家に帰っても狂信的な母親マーガレット(パイパ・ローリー)に禁欲を戒められ、事あるごとにお仕置き部屋に閉じ込められる。学校で唯一の理解者は女性の体育教師コリンズ(ベティ・バックリー)だけだ。しかし、そんな孤独なキャリーにクラスのアイドル的な男子生徒トミー(ウィリアム・カッツ)から卒業記念のプロムパーティへの誘いがかかり・・・

 いやあ~とにかく素晴らしいと思ったのはドラマ部分の実にツボを押さえた演出。もうプロムに至るまでに、完全にキャリーに感情移入しきっていた。おまけにトミーにエスコートされプロムの席で、おそらく男の子と初めて親密に会話をし、キスまでされて人生絶頂の笑みを浮かべるキャリーを見て(勿論、その後の展開は知り尽くしているものの)青春ホラー映画というレーベルから”ホラー”を抜いて、このまま青春映画として終わらせてやって欲しいと、乙女心のように切に画面に向かって祈ってしまったほどだった。

 ところが映画は容赦なく、阿鼻叫喚に向けてカウントダウンが始まっていく。プロムのクィーンに選ばれたキャリーに、天井に仕掛けられたブタの血が浴びせかけられ、キャリーの怒りが爆発、プロム会場が地獄絵図と化す。そして、ビックリ仰天のエンディング。

 そもそも、今回、再見し、これほどまでに驚愕したのもブライアン・デ・パルマという人のキャリアを自分なりに良く知っているからだ。この作品を撮るまで、前作にあたる「悪魔のシスター」や「愛のメモリー」を除けば、ロクな商業映画など撮っていなかった。実はそうした時期のアングラ映画まで、追っかけをしていた自分はしっかりと見ている。そうしたアングラ映画を見る限り、もしも自分がプロデューサーだったらとてもこの人に商業映画の監督なぞ頼まないな、というほど、それらは青臭いアングラ臭が強い作品(「ハイ・マム」や「グリーティングス」のことです)だった。

 ところが、そんなデ・パルマがここではまるで見違えるかのように見る側のエモーションを的確に掬い取ってみせている。改めてデ・パルマの大器としての才能のふところの大きさが感じられすっかり嬉しくもなった次第。やっぱりI LOVE デ・パルマ

 本作がデビュー作となる若々しいジョン・トラボルタナンシー・アレン、そしてエイミー・アービングと、当時の同期のルーカスやスピルバーグといった才気あふれる監督たちの作品群を支えたキャストが何とも懐かしかった。