負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の土曜の夜はゴキゲン「荒野の七人」

ガンマンも年を取って老いるということをこの作品で初めて知った

(評価 68点)

 

まだまだ負け犬が、ほんの子供の頃、土曜の夜が楽しくて仕方なかった。だって「仮面ライダー」の放送日。それに午後9時からは土曜映画劇場があったから。忘れもしない、「荒野の七人」が初めて放送されたのは、その土曜映画劇場だったのだ。

 その当時、毎日のように各局ではゴールデンタイム枠での洋画劇場がひしめきあっていた。ビデオすら影も形もない時代、家庭で映画を楽しむにはテレビの洋画劇場しかなかったのだ。そして、どの洋画劇場も2時間枠だったのに、土曜映画劇場はコンパクトな1時間30分。CMタイムを割り引くと正味、放送される映画の尺は1時間15分ほどになってしまう。だから、もっぱらそこで放送されるのは、比較的マイナーな映画が多かった。

 ところがその番組が目玉として大ヒットの大作を放送するとあって、当時としても珍しい、前編、後編に分けての2週連続放送となったのだ。これだけでもいたいけな子供心をくすぐるには十分だろう。そして、いざ放送開始、胸をワクワクさせばがら、息を詰めるようにブラウン管に見入ったのだった。

 まあ~夢のような時間でしたね。当然、週が明けた月曜日、クラスの話題は「荒野の七人」のことでもちきり、やれクリスがどうだの、ガンマンたちを選ぶオーディションのシーンがむちゃくちゃ面白かっただの、一体、この先、どーなるんだろう・・とかって、まあワイワイガヤガヤ。後編までの一週間が待ちきれなかった。

 そして、後編、当然の如く、ガンマンたちは、とうとう村を襲撃してきた山賊との戦いで一人ひとり死んでいく、何だかそのことが、知ってる人間が死ぬのを目の当たりにするようでショックだった。そんな中、一番心に残ったシーンがあった。それに先立つ、やがてやってくる山賊たちとの戦いに備え、ガンマンたちが村人たちに戦い方を伝授するシーン。そこで、寡黙だが一番、子供に好かれているベルナルド(チャールズ・ブロンソン)に向かってまとわりついていたガキの一人が「ガンマンたちは勇敢だ、ウチの父ちゃんたちは皆、臆病者だ」と言う。すると、ベルナルドが本気で怒ってガキの頭をひっぱたいてこう言うのだ「バカ野郎!ガンマンなんかよりお前らのために、一生懸命、畑を耕してる父ちゃんたちの方が、ずっと勇敢なんだよ!」

 このセリフ、子供だったこともあって聞いたときは良く分からなかった、しかし、フッと頭に浮かんだのは確かに、ガンマンたちは誰も皆根無し草の風来坊だということ。何となく家族持ちよりそんな風来坊の方がおそらく気楽なのだろうというイメージだけがあった。

 そしてン十年が過ぎた時、フとこの作品を再見することを思い立った。かくして・・・やはりその後の映画遍歴で、本作のオリジナルの「七人の侍」がマイベストの一本に殿堂入りしてしまっていたこともあって、子供の頃はあれほど興奮モノだったにも関わらず、時のうつろいはかくも残酷なことに、何かと物足らない作品になってしまっていた。

 ところが、くだんのベルナルドのシーンになると、ホロリとするどころか何故か泣いてしまった。それなりに自分も年を取り、世間や社会を幾ばくか知ると、この手のセリフに泣けるのかと思ってしまった。

 同時に思いだしたのは、ガキの頃、好きな映画が洋画劇場で放送される日を指折り数えて待ち焦がれ、かじりつくようにして見ていた日のことだ。思えば当時、映画館の入場料も結構な額だった。まあ、つつましい庶民の家だったので、そうそう映画を見に行くことなどさせてもらえず、映画館に行くということは一種のイベントでもあった。だから、自分の映画遍歴の原点といえば、それはやっぱりテレビの映画劇場なのだ。

 今、デジタルの媒体やネットで好きなだけ自分の好きな映像が手に入れられる時代にはなった。でも、最も幸福だったのは、そうして一心不乱にテレビの画面を見つめていた自分ではなかったろうか?この映画のテーマ曲を聞くたびに負け犬はいつもそんなことを考えてしまうのです。