負け犬的映画偏愛録

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負け犬の流れ者は地獄の強姦魔「荒野のストレンジャー」

神か悪魔か?地獄からやって来た強姦魔!寓意とレトリックに満ちたゴシック・ウエスタンの傑作

(評価 74点) 

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あの「荒野の用心棒」の名無しのジョーが町の人々をいじめ、女を平然とレイプする。イーストウッドの演出が冴えわたるカルト・ウェスタン。

 西部劇にリベラリズムを持ち込みアカデミー賞まで受賞した社会派ウェスタンの傑作「真昼の決闘」。

 平和な町ハドリーヴィルの保安官ウィルのもとに、かつて刑務所に送った、ならず者たちが出所し、お礼参りにやって来るとの報せが入る。ウィルは町の人々に協力を求めるが、誰一人手を貸そうとせず、とうとうウィルはたった一人で立ち向かう羽目になる。当時、ハリウッドに吹き荒れていた赤狩りの嵐。その逆風の中で、脆弱な民主主義を西部劇に持ち込むという意表を突く発想と、映画の時間軸と実時間を同時進行させるという斬新な手法でウェスタン映画史にその名を刻む傑作だ。

 そもそも、イーストウッドが「荒野のストレンジャー」の製作を思い立ったのも、この「真昼の決闘」の主人公が、そのまま殺されていたらというコンセプトの、わずか9ページのシノプシスをたまたま読んで、そのオフ・ビートな発想に着目したからだった。そして、「恐怖のメロディ」を放って監督デビューを飾っていたイーストウッドは、迷わず二作目の監督作として本作をチョイスする。

 陽炎に揺られ、マカロニ風でありながら、ちょっと怪奇風の音楽とともにイーストウッド扮するストレンジャーが現れる本作のテイストはまさにカルトそのもの。

 誰もが唖然とするのが、お馴染みのマカロニヒーローのルックスで町にやって来たイーストウッドのその所業。酒場で絡まれ、たちまち相手を撃ち殺す非情ぶりはいいにせよ、通りすがりの町の女を、いきなり納屋に引きずり込んで平然とレイプする。マカロニの正義感に慣れ親しんでいた観客は仰天するだろう。現に最初見た時はこの負け犬も大いに困惑した。

 だが、そのストレンジャーが、どうやら非情な町の人間に見捨てられ、墓場に葬られたかつての保安官と因縁があるらしいことが分るにつけ、本作は、残虐なメルヘンのような寓意性を帯びてくる。本作が本領を発揮しだすのは、実はそこからなのだ。

 「真昼の決闘」同様、出所したかつてのならず者3人組が、お礼参りも兼ねて町を目指して来ることを知るや、町の人間は、藁にもすがるように、よそ者であるはずのストレンジャーに女々しく助けを求める、そこで、ストレンジャーは、その条件を呑む代わりに、町の人々にあることを命じる。

 それは何と、町の建物をすべてペンキで真っ赤に塗りつぶすこと。かくして、ストレンジャーの命令で、町の人々はあくせくと建物を真っ赤に塗ることに。

 実に珍妙きわまりないこのシーン。メイキングによれば、スタジオ近辺でロケをすることを望んでいたユニバーサルの要求を退け、イーストウッドはスターとしての威光を発揮し、海辺の土地に、実際の町の建物を作らせた。建物は、インテリアまで精巧に作られたため屋内シーンでもスタジオ撮影することなく、そのまま流用された。

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 抜けるように真青な空、それに西部劇としては珍しいこれまた真青な海、そして真っ赤に塗られた町に、馬上のイーストウッドを捉えるショットは、ウェスタンというより、グリム童話のような、メルヘンチックな印象を描出する絶好なヴィジュアルとなっている。

 まさしくグリム童話のハメルンの笛吹き男のように、町の人々を思いのままに操り、そのまま去っていく、それだけで、さしてスリリングな展開も派手なアクションがあるわけでもない。しかし、不思議と面白いのは、言うまでもなくイーストウッドの堅実で、実に巧みな演出の賜物と言っていい。

 イーストウッドが優れているのは、大スターなのに、こうした変化球的なアイデアにも目ざとく価値を見出し、作品をモノにしてしまうところ。そのおかげでマイケル・チミノの「サンダー・ボルト」や、後の「アルカトラズからの脱出」のような佳作が生み出された。

 ちなみに、原典ともなった「真昼の決闘」は、あのタカ派として有名なハリウッドのデューク、ジョン・ウェインが、その卑屈な庶民根性に激怒し酷評した。本作でも、最後、町の人々は破滅同然となるが、そこにも群れるしか能がない小市民たちへ、近親憎悪的な侮蔑感を、常に孤狼のごとく我が道を歩いて来たイーストウッドが覚えていると感じるのは、この負け犬だけでしょうか。

 エンディングでは、このストレンジャーが黄泉の国から来たことを、それとなく示唆するが、イーストウッドには黄泉の国といわず、この現生でまだまだガンバッテいただきたいものですよね~