負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬は口笛を吹く「荒野の用心棒」

ヒロイズム、クールといった言葉はこの映画から学んだ気がする

(評価 90点)

 

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子供の頃、レコードにはシングルとLPがあった。シングルは表と裏に一曲ずつ、LPが今でいうアルバムだ。そのLP盤のレコードで初めて買ったのが数々のウェスタン、それもマカロニウェスタンのテーマ曲ばかりを集めたレコードだった。

 一番のお目当てが勿論、あまりにも有名なこの映画のテーマ曲。まず初めに聞いたのは、テレビの洋画劇場(土曜映画劇場だったと思う)でこの映画を見た時が最初だった。この映画を見て心を奪われない男の子なんているのだろうか。以来、このテーマ曲、あのモリコーネの口笛のメロディが今に至っても片時も止むことなく耳のどこかで鳴っているような気がする。

 今更言うまでもないけどこの映画、あの黒澤明の「用心棒」のパクリである。確信犯的な無断借用である。イーストウッドも脚本を数ページ読んだだけで盗作だと気付いたらしい。それならキャリアに傷もつきかねないのに何故、出演したのだろう?テレビの仕事も無くなり仕事にあぶれていたのは確かなようだが・・

 何にせよ、この映画、新たなジャンルを生み出す切り口となる映画が全てそうであるようにギラついた熱気に満ちている。現実、食い詰めてわざわざスペインまでやって来たイーストウッドがそうであったように、野心に満ちた監督セルジオ・レオーネもまた、とにかく自分の映画を創りたいという思いがあまって盗作や剽窃をも顧みない行為に及んだのではなかろうか。

 そんな欲目もあるのかもしれないが、この映画、面白さという点では間違いなくオリジナルの『用心棒』を凌駕していると思う(勿論、オリジナルもマイベストといっていいほど好きな作品ではあるけれど)。その理由は、やはり脚本だろうか。例えばオリジナルでは、町役人を殺した、とだけのセリフのみで処理されているシーン。それが本作では、川辺で一時休止する軍隊をマシンガンで一人残らず虐殺するというスペクタクルなアクションシーンに置き換えられ、またそのシーンで手際よく敵役のジャン・マリア・ヴォロンテを登場させ、そのキャラクターを際立たせるという効率的な処理が成されている。

 プロット展開としては細部に至るまで余すことなく完コピといってもいいほどオリジナルをなぞっている本作だが、用心棒の上映時間は110分、それに対し本作は、新たなシーンを増幅しているのにもかかわらず100分と、10分も短い。要するに何かにつけてムダがないのだ。

 でも本作は何よりもとにかくこのイーストウッドによる名無しのジョーの造型に尽きる。そしてそれを際立たせるレオーネの美学が爆発したような演出。ラスト、傷が癒えた体で捕らわれの身の酒場のおやじを助けるためにやって来たイーストウッドが、ダイナマイトを携え町に現れ、爆破させたダイナマイトの噴煙がもうもうと立ち込める中、霧が晴れるように吹き去ったその噴煙から姿を現すシーン。

 さらには地面に張り付いたようなロー・アングルから捉えたイーストウッドの足がこちらに近付いてきて、その靴がドアップになる超絶的なまでにイカすシーン。まったくもってヴィジュアルセンスに長けた監督の演出のパワーを思い知らされる。

 マカロニウェスタンというジャンルをたった一本で切り開き、またそのジャンルにこれ一本で引導を渡したかのような映画だが、自分にとってはヒーロー像の原点になった映画でもある。

 薄汚れたポンチョをまとって去っていく、その後ろ姿へのまるで手向けのメロディを奏でるような口笛は、これからも自分の耳の中でずっと止むことはない。