負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のテクニカラーの冒険談「ネバダ・スミス」

オーソドックスなエンタメとはまさにこれ。テクニカラー雄大な自然の中で語られる復讐冒険談が実に楽しい

(評価 74点)

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 若きマックイーンのフレッシュな魅力が存分に楽しめる。昔、懐かしいテイストの絶品ウェスタン。

 本作を初めて見たのは、おそらく「ゴールデン洋画劇場」。その頃は、映画かぶれが始まったばかりのまだガキの頃。アメリカンニュー・シネマの作品群の洗礼にどっぷり浸って、どちらかといえば本作のような、テクニカラー全開の、ある意味古色蒼然としたテイストの映画に、あまりベクトルを示さなかった時期ということもあり、見るのは見たが、作品そのものは、さして印象に残るものではなかったと記憶する。

 だが、それから数十年が経ちそれなりに年を取ると、何故か体そのものが必要な栄養分を欲するように、クラシックなテクニカラーのテイストが妙に欲しくなって、その頃の映画をよく見るうちに、次第にそのテイストの方が欠かせないようなものになってきた。

 そんな次第で、やたら見たくなって再会を果たしたこの「ネバダ・スミス」。結局、それ以来、クセになって今では繰り返し見ずにはおれない映画となっている。

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 本作の魅力は、やっぱりというか、マックイーンの溌剌とした魅力に尽きる。まだ若きマックイーンが目に染みるほどの鮮やか且つ雄大な自然の中で、繰り広げる冒険をただあれよあれよと眺めているうちに気持ちよくエンド・マークを迎えてしまう。

 お話がまるで定石通りなのも気持ちがいい。ネバダの自然の中で両親と共に暮らすマックス(スティーブ・マックイーン)。しかし、冒頭で、その両親が3人組のならず者たちに無残に殺される。その復讐を誓ったマックスが、野を超え山を越え、ひたすらその3人組を追い、復讐を果たすまで、という実にシンプルなもの。その上、本作には更にクラシカルな冒険談的テイストが満載なのがうれしい。

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 復讐の旅に出たマックスは、様々な人間と出会う。先走って人違いした相手が意外と親切で、ちょっと気を許したがために身ぐるみはがされてしまう。空腹のあまり、錆びついた銃で慣れない強盗をしようとするが、それが銃のセールスマンで、ひょんなことからその銃のセールスマン、ジョナス(ブライアン・キース)に逆に銃の手ほどきを受けることになる。

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 まるで紙芝居でも見ているかのようなセピア・トーンのプロット展開ながら、マックイーンのカリスマ性が節々に光っているのがたまらない。元々、華奢な体のマックイーンには不釣り合いなほどバカでかいライフルを構えるポーズ、何気ない仕草のそのすべてにカリスマ的な魅力があるのが本作を見ていると良くわかる。そして何よりもその笑顔のチャーミングなこと。

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 一人目のジェシーマーティン・ランドー)を仕留め、その時、知り合ったインディアンの少女との束の間の休息もよそに、一味の一人がルイジアナの沼地にあるプリズン・キャンプに服役していることを知るや、復讐のために、何と狂言強盗をして自分も囚人になるという熱血ぶり。そこで脱走を働きかけ、脱出行の道中、相手を仕留める、この過剰なまでのプロット展開はまさに熱血冒険談そのものだ。

 いよいよ終盤、マックスは、今は駅馬車強盗を率いる最後の一人トム(カール・マルデン)に近付くため、取り入って手下になろうとする。その時、偽名として名乗るのがこの映画のタイトルの「ネバダ・スミス」なのだ。最後の最後に映画のタイトルの由来が明かされる古風なドラマ仕立なのも妙に楽しい。

 スター街道を突っ走り始めた颯爽たるマックイーンを存分に楽しめる本作。決して息をもつかせぬというわけではないけれど、ゆったりと時間を気にせず、ロケーションの効果も絶大な、みずみずしくも色鮮やかで雄大な自然とクラシカルな映画のテイストに酔いつつ楽しむにはもってこいのウェスタンだ。