負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬はアイデア倒れ「ニューヨーク1997」

テメエの身の程をわきまえろ!とカーペンターは怒り狂った

(評価 72点)

 

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要塞警察」というB級映画の金字塔的傑作を放ち、批評家、映画野郎から俄然、注目を浴びたジョン・カーペンターが、低予算で高収益が狙えるホラーというジャンルにベクトルを振るのは、至極当然のことだった。そこでカーペンターは「ハロウィン」という金脈を掘り当てる。今なお、不滅のキャラクター、ブギー・マンを見事にブランド化させたカーペンターが、いよいよ手にしたのは予算だった。

とはいえ本作「ニューヨーク1997」の予算は、大作映画とは到底、言えない中規模にも満たないもの。それでもカーペンターにとってはやっと掴んだ勲章のような勝利の証だった。しかし、カーペンターにはどんな大作映画にも負けない武器があった。アイデアを生み出す想像力だ。実際、本作の製作が1981年に明らかになった時、誰もが驚いたのがそのアイデアだった。

1997年の未来のアメリカ。犯罪率は増加の一途を辿り、刑務所施設に収容しきれない犯罪者たちに業を煮やした政府は、ニューヨーク島に全犯罪者たちを隔離、周囲に壁を建造した。ところが、その全土が刑務所となったニューヨークで、大統領専用機が消息を絶つという事態が発生。大統領の生息を確認した政府は、死刑囚のスネークに大統領救出のミッションを遂行させる決断をする。

当時、集中的にジョン・カーペンターをフォローし、負け犬が、貪るように毎月読んでいたSFジャンル誌「スターログ」誌に載っていたこの紹介記事を目にして、何てイカすアイデアなんだ!と熱くなるような興奮を覚えたものだった。しかし、それは自分だけではなかった。これをフォローするどのメディアもこのアイデアそのものには当時、感嘆していたふしが確かに感じられた。

 負け犬がこのアイデアに感嘆したのもそこに、B級映画出身たるカーペンターの自分の身の丈にすっぽりフィットしたようなタイトな感覚と、低予算のマイナーなポジョションからのステップアップのプロセスにふさわしいメジャー感との絶妙なバランス感覚があったからだ。

現に、この作品の撮影時の製作ルポにも、カーペンターは、自分が低予算映画の現場で鍛えられてきたこと、その叩き上げともいうべき実力を本作で遺憾なく発揮してみせると豪語していた。

だが、そんなカーペンターの前に、刑務所の壁よりも高い大きな障壁が立ち塞がることになる。

近未来が舞台の本作にはSFX、特殊効果が必須となる。そこでカーペンターは、はじめて特殊効果のスタッフたちを探す必要に迫られた。だが、カーペンターはここで、とてつもないほどイヤな思いを味わうことになる。

当然、高い技術力を持つ人材はギャラも高い。しかし、効果のほどは保証される。そこでカーペンターは、当時、スターウォーズアカデミー賞を取り、評価も高かったジョン・ダイクストラのもとを訪れた。ところが、そのジョン・ダイクストラの態度たるや、まるで自分がスタッフどころか大監督のように振舞い、カーペンターなぞどこの駆け出し監督か、のように見下ろす上から目線の極塩対応だったという。完膚なきまでにプライドを傷つけられたカーペンターは、当時のことを聞かれ「(たかが特殊効果のスタッフのくせに)自分の身の程をわきまえろと言いたかった」と怒りもあらわに打ち明ける。実はこのセリフ、あのマイケル・チミノが脚本を書いた「ダーティハリー2」で、司法権を逸脱しマフィア狩りを始めた白バイ警官のグループの一人にハリーが言い放ったセリフだった。

そこでカーペンターは、名うてのスタジオ探しをあきらめ、ほぼノーギャラ同然で仕事を請け負う物好きな連中を募る。その誘いにのってやって来たのが何とあのジェームズ・キャメロンだった。まったく無名の馬の骨にすぎないキャメロンたちはDIY感覚で廃墟と化したニューヨークの円形のビル群のロングショット。それに今でも有名な、スネークがビルの屋上にランディングする時、グライダーのコックピットに映し出されるビルのワイヤーフレームの映像を、完全に手作りで生み出した。

こうして、B級映画畑出身カーペンターの意地と誇りをかけ完成した「ニューヨーク1997」の出来栄えに誰もが息を詰めて見守った・・・・のだが。

本作、今見ても、何かにつけてもどかしい、手放しで傑作とは呼び難い作品となってしまった。一番むずがゆいのは、設定のアイデアはすぐれているのに、それに満足しきって、いくらでも面白くなる努力を出し惜しみしているようなところ。折角。アーネスト・ボーグナインやハリーディーン・スタントンのような名バイプレイヤーを揃えているのにいかしきれていないところなどなど。

とはいえ、あの「要塞警察」のゾンビのようなギャングたちを想起させる、無法地帯に巣食うクリーチャーと化した受刑者たちが襲ってくる描写など、B級映画の帝王の面目躍如たる見所も多い。確かなのはいつもながらのカーペンター自身による本作のテーマ曲が絶品なこと。このテーマ曲を聞きつつ、カーペンター独自のB級節に浸れる悦楽を味わえるのもまた確か。

惜しむらくは、この作品を機に一気にA級のキャリアにとはいかなかったのが、何とも残念なところだったな~