負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬がエイティーズのエログロホラーにチョット感心した件「ソサエティー」

肉体は欲にまみれて変容する、エイティーサウンドに乗せて送るエログロボディーメタモルフォーゼホラー

(評価 70点)

 エログロホラーという言葉の響き。それはホラーの中でも一つのジャンルを成していると言えるのではなかろうか。本作は、そんなエロとグロ、それを80年代のあの独特のテイストで描き出した、ちょっと珍奇で、シュールなホラーの佳作。

 ハイソなコミュニティーとしてつとに有名なビバリーヒルズの豪邸で何不自由なく暮らすティーンエイジャーのビル。しかし、そんなビルも何故か、やたらと馴れ馴れしくベタベタと親密にしている妹と両親たちに違和感を覚えている。

 ある日、妹の元カレに聞かされたのは、ビルの家族がオージーまがいの行為をしている声を密かに録音したテープだった。そして、たまたまビルがシャワー室で見かけたのは奇妙に上半身と下半身が捻じれた妹の肉体だった。

 本作を珍奇なホラーと形容したが、このイントロから、ビルが家族や自分の周囲のコミュニティーに不信感を覚え、疑惑も顕わに、どんどんパラノイアに陥っていく姿を描く前半から中盤にかけては、あくまでもオーソドックス。

 自分が属するコミュニティーが、異常な集団ではないかについてのパラノイアといえば、冷戦や全体主義の抑圧の恐怖を描く60年代や70年代によく見られたSFホラーの典型とも言える。そんな作品群で描かれた恐怖の根源は、エイリアンに精神や肉体を乗っ取られたり、洗脳されたりしたゾンビのような人々だった。

 それでは、一体、本作で描かれる恐怖の根源、異様なコミュニティーの実態とは何なのか?

 本作のテイストがちょっとユニークなのは、何かがおかしいという不信感に苛まれるビル。そんなビルが目撃する不審な出来事で奇妙な不協和音を奏でパラノイアのボルテージを高めていくスタイルが、パイオツ丸出しのギャルが横溢する80年代の学園もののテイストから、クライマックスにかけて一転しておぞましいことこの上ないホラーに転じていく妙味といえる。

 パラノイアとなって、無理矢理、家族に救急車で担ぎ込まれたビルが救急病棟から逃げ出し、深夜、自分の豪邸に忍び込んだビルが目撃したものとは・・・!?

 長寿、繁栄、富、無限の若さへの渇望、そうしたものを手にいれようと集団を成す人間たち、それを可能にするものが明かされるラスト30分の幕開けに、本作を見た人なら少しギョッとするかもしれない。

 そこで繰り広げられるビジュアルを一手に担うのが、ハリウッドで活躍した日本の特殊メイクアーティストの第一人者、スクリーミング・マッド・ジョージ。オープニング・クレジットから不穏なビジュアルを垣間見せる本作で、最後に見せつける、おぞましさきわまりないドロドログチャグチャ全開のビジュアルはまさに同氏の面目躍如。それに本作ではエロが加わるから一層にそのテンションも高まる。

 しかし、本作、クライマックスに至るまで見た人なら、まるでデジャブのように、このアイデアや作品全体の体裁から、何かに似てない?と思う人もいるのではなかろうか。この負け犬がまさにそうだった。

 そう、近頃、やたらとよく聞く名前、ジョーダン・ピール。その監督が大ブレイクを果たした出世作「ゲットアウト」だ。

 本作「ソサエティー」の監督は、やはりエログロでその筋のマニアでは有名なブライアン・ユズナだが。あくまでもB級に甘んじていた同監督は本作のアイデアに入れ込んで一発ブレイクを目論み、本作をぶち上げた。だが、ヨーロッパではそこそこの評判だったものの、本国では無視同然の扱いでフェイドアウトの末路となった。

 「ソサエティー」や「ゲットアウト」、どちらのコンセプトも構成は似通ってはいるもののアイデアやクライマックスのビジュアルは「ソサエティー」の方がショック度は高い。

 「ゲットアウト」の場合、監督がブラックで、公開当時、たまたま貼られた人種差別ホラーというレッテルが独り歩きして大ブレイクしたふしもある。

 そういう意味では、本作自体が負け犬映画ともいえる。だからですかね~この負け犬が本作に人並み以上の愛着を持ってしまうのも。