負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

一匹狼は野良犬なのか「ダーティハリー」

一匹狼はピストルを追いかける野良犬だった

(評価 82点)

f:id:dogbarking:20201229050758j:plain


 

この作品を初めて見たのは淀川長治解説の日曜洋画劇場。以来、数十年、数えきれないくらい見ている。それなのに、まだ見足りない。しばらく『ダーティハリー断ち』をしていると、ウズウズしてきてまた見たくなる。まったくジャンキー泣かせの麻薬みたいな困った映画だ。

 だから、というわけでもないが、内容については全く語らない。今更、どーだこーだといったって退屈なだけだから。

 しかして、実はこの映画にはあまり知られていないことがある。

かつて自分は古本屋を漁ってはキネマ旬報のバックナンバーを熱心に集めていた。家の本棚にはページが黄ばんだ古いキネマ旬報がズラりと並んでいた。

その中に「デリンジャー」の特集号があった。デリンジャーは男性派を代表するようなあのジョン・ミリアスが1973年に撮ったデビュー作だった。

そして、その特集号にデビュー作の公開に合わせ来日したミリアスとのインタビューが掲載されている。

ミリアスがダーティハリーに関わったことは一部では知られている。でもそれは主に一作目より二作目のあのダーティハリー2の方で一作目から関与していたことはあまり知られていない。

そして言わずもがな、ミリアスといえば大のクロサワの崇拝者として知られている。インタビューの中でミリアスが明言していたのが、ミリアスはクロサワのあの「野良犬」を参考にして脚本を書いたとのことだ。

「野良犬」はピストルを奪われた三船演ずる若き刑事が、志村隆のベテラン刑事とコンビを組んで犯人を追い詰めていくサスペンスだ。

ミリアスによれば引用したのが、ハリーがスコルピオを追い詰めるスタジアムのシーン。野良犬のあの、ピストルの情報を握る男を野球場で確保する印象的なシーンである。そして確信犯的ともいえるほどモロなのが、追跡の過程で起きた犯罪に自分のピストルが使われていることを懸念した三船が、射撃場で打ち損じた自分の弾丸をほじくり返して鑑識に持ち込み、照合を依頼するシーン。

このシーンはそっくりそのままダーティハリー2での、マフィアたちを抹殺している犯人が若い白バイ警官たちだとニラんだハリーが射撃コンテストでその警官たちの一人が打ち損じた弾丸を掘り返して鑑識で照合するシーンに流用されている。

ダーティハリー2の脚本でクローズアップされるのは、いつもディア・ハンターマイケル・チミノの方だが、かくしてこれほどまでにミリアス臭が色濃く反映されていたのだ。

それにしてもあのダーティハリー2。一匹狼の暴力刑事ハリーと超法規措置に突っ走る白バイ軍団という、さしずめダーティハリーVSワイルド7みたいなアクション映画ファンなら垂涎もののおいしい設定が台無しになった作品だった。血気盛んな若い才能が集結したもののスタジオシステムとの確執があったものと推測される。

もしもミリアス自身が監督していたら・・・映画フリークのたら、ればの妄想がどーしようもなく喚起されてしまう何とももどかしい作品だ。