負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の夏に降り立つ美青年!まばゆく澄んだ青に心から酔いしれる「ハートブルー」

夏にピッタリなアクション映画の大定番。美青年キアヌ・リーヴスパトリック・スウェイジがタッグを組んで縦横無尽に心地よく躍動する快作アクションの決定版

(評価 85点)

 いつまでも終わらない夏。夏といえば、焼け付く暑さと澄んだ青、そして波立つ海のまばゆい煌めき。そんな夏そのものを体現した映画をついつい見たくなるもの。そんな時にぴったりな映画こそ本作。本作こそまさにリュック・ベッソンの「グランブルー」のフリーダムな爽快感とアメリカンなアクション映画の躍動感が見事にマッチングした理想の夏映画といえようか。

 元々、本作のはじまりは一人の男がこんな発想をいたずらに思いついたことだった。「刑事が、サーファーたちのグループに潜入捜査で入り込んでサーフィンしたら面白くね?」。そして、こんなマンガもどきのアイデアを思いついた男こそ誰あろうあのジェームズ・キャメロンだった。キャメロンはすぐさまそのアイデアを「ジョニー・ユタ」というタイトルの初期草稿としてまとめあげる。当時、「エイリアン2」で一躍、ハリウッドの寵児として持て囃されていたキャメロンの売り込みに、これもまた当時、業界で躍進中だったラルゴ・エンターティメントが快諾、目出度く制作の運びとなった。

 ラルゴも本作ヒットの鍵が二人の主役のキャスティングなのは重々承知の上で、主役にスター街道を歩み始めたキアヌ・リーヴス、その対を成すもう一人の主役に「ゴースト/ニューヨクの幻」で大ブレイクを果たしていたパトリック・スウェイジを抜擢。そして監督には、アクション派なのにハリウッド随一の美人監督として名を馳せていた新鋭キャスリン・ビグローを指名し万全の態勢で制作を開始した。

 水もしたたる美青年キアヌとセックス・アピール抜群のパトリックの二大主役に、エクストリームスポーツとアクションの融合というハイブリッドなテイスト。スタジオ側も本作公開時、爆発的大ヒットを確信していた。しかし、残念なことに本作は公開時、スタジオの期待に反し、小ヒットにとどまった。

 だが、本作のその感覚の新しさは今、見ても少しも色褪せない。若々しくハンサムそのもののナイーブなキアヌとパトリック、そして夏そのものの躍動感に心を躍らせてくれる快作なのだ。

 本作を一言でたとえるなら、とにかく胸をすっきりさせてくれる映画。そもそも刑事が、銀行強盗一味をサーファーたちと睨んで、サーファーに成りすます、なんてプロット自体、本来、バカげていてコメディにしかなり得ない。ところが、本作、見ている間は、繰り出されるサーフィンからスカイダイブに至るシーンを交え、展開する成り行きに少しの違和感も覚えない。刑事ものの定番のバディムービーに、スポーツ映画を一見、安易に掛け合わせたように見える本作だが、クレジットではたった二人しか冠されていないシナリオには数十人ものライターが関与してリライトを重ねていた。

 それもそのはず、本作は、導入部のダイナミックな強盗シーンから、定番の主役の刑事と、コンビになるベテラン刑事。さらに現場に残されていた証跡からビーチを根城とする人間が犯人と睨み、サーファーたちをマークし、ボーディ(パトリック・スェイジ)をリーダーとするサーファーたちのコミュニティーに潜入する、といった具合にさして破綻することもなく構成されていることが今見ると良く分る。

 そして、本作の最大の魅力がサーファーたちの一団が、金目的の強盗団などではなく、既存のシステムに反発し、強盗をエクストリームスポーツの一つとして遂行するジプシーのようなコミューンであること。これなどまさに、前作が、バンパイアたちの一団がシステムから逸脱したアウトロー集団という設定のアクション・ホラーの快作「ニアダーク」を監督したキャスリン・ビグローの面目躍如といったところ。

 こうした下地があればこそ、本作の次々に繰り出されるダイナミックなシーンが俄然、魅力を増してくる。ジョニー(キアヌ)がボーディの一味に加わり、はじめて夜のサーフィンに繰り出す荘厳なまでに美しいシーン。夜明けにサーフボードに跨ったままタイラー(ロリ・ペティ)とキスするシーンなど、潮の臭いがこちらまで伝わってくる。

 そして、何といっても、ジョニーがすっかりエクストリームスポーツの魅力に感化されてしまうスカイダイビングのシーンの圧倒的な爽快感。サーフィンのシーンにしろ、スカイダイビングのシーンにしろ、ベストショットをモンタージュした本作の編集は、贅沢な製作費を注ぎこんだのが明らかで、爽快感のみならず充足感すらある。

 強盗計画を察知したジョニーがアスリート顔負けの、ランニングチェイスの挙句、ボーディの逃亡を許し、捜査官であることが露呈したジョニーをボーディは、タイラーを人質に取って無理やり最後の強盗計画に加担させる。

 グッとくるのがやっぱりラスト。雨に煙るビーチで男同士の別れを交わし、ボーディは伝説のビッグウェーブに呑まれ藻屑と消える。そんなボーディに一瞥もくれず雨の中、去ってゆくジョニー。そして濃い青はハートブルーとなって伝説の一本と化した。

 ただ、この負け犬が夏になると無性に見たくなる映画がもう一本あって、灼熱のLAの渋滞の中で、失業中の中年オヤジが突如、世の中にブチ切れて暴発するパニック・ディザスターの傑作「フォーリング・ダウン」がそれ。

 どうせ見るなら二本立てで見るのも乙なもの。水も滴る美青年のエクストリーム・ムービー「ハートブルー」、中年オヤジのサマー・ウォーズ「フォーリング・ダウン」。どちらを先に見るかは、その時のあなたのささくれ立った気分次第というところでしょうかね~

 

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