負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬が大空を見上げ夢想していたガキの頃のことを思い出した件「NOPE ノープ」

誰もが空を見上げ、漂う雲に思いを馳せていた子供の頃。そんな子供心の琴線をくすぐるようなセンスオブワンダーを感じさせるスーパーナチュラル・ホラーの快作

(評価 78点)

 真っ青な広大な空にポッカリと浮かぶ雲。そのどれ一つとして同じ形はない。それどころか、ある雲はモクモクと、また、ある雲は優雅にたなびいて、まるでパフォーマンスでも披露しているように見える。子供の頃なら誰もが、そんな雲をみながら夢想に耽った時があったのではなかろうか。

 本作は、一見、ありふれたサイファイ映画と思わせておいて、誰の心にでもあるセンスオブワンダーな童心をくすぐる、ちょっと意外なアイデアで存分に楽しませてくれるスーパーナチュラル・ホラーの秀作だ。

 ジョーダン・ピール。映画好きの人なら、この男の名前、誰もが聞いたことがあるはず。そう、あの人種差別ホラーとして世界中で大ヒットした「ゲットアウト」でブレイクを果たした新進気鋭の監督だ。

 負け犬が「ゲットアウト」を見た時、真っ先に想起したのが、あの往年の伝説のTVシリーズ「トワイライト・ゾーン」だった。スピルバーグはもとより、それより一世代、二世代も若い世代でさえ、本国で繰り返し再放送されていたに違いない、超絶的なクォリティーを誇るこの番組に心酔していたクリエイターも多いはず。

 続く第二作「アス」を見た時、ジョーダン・ピールもまた「トワイライト・ゾーン」好きの一人に違いない、そんな確信を新たにしたものだ。つまり、ジョーダン・ピールの作品に通じていると直感的に感じたのが、センスオブワンダーなアイデアだった。

 「トワイライト・ゾーン」に通念として流れるテーマとは、日常に隣人のように寄り添う、奇妙な物事。この負け犬が「トワイライト・ゾーン」を最初に見たのは、番組名が「ミステリーゾーン」の時だった。毎回、繰り出されるアイデア豊かで、子どもの恐怖心にも訴えかけるセンスオブワンダーなエピソードの数々に夢中になった。

 果たして、「ゲットアウト」、「アス」と、二作を立て続けにヒットさせ、一躍、第二のシャマランとして躍り出たそんなジョーダン・ピールが放った第三作目「NOPE ノープ」とはどんな作品なのか?

 のっけのオープニングからまず、意表を突かれる。

 TVのスタジオのセット、そこに少し興奮気味のチンパンジーがフレームインしてくる。子ども番組のセットのようだ。しかし、そこには横たわる女性の足が椅子の端から突き出ているのが見える。どうやらそのチンパンジーが修羅場と化したセットの張本人らしい。でも、一体、何故、どうして?

 「ゲットアウト」、そして「アス」と、ジョーダン・ピールはやはりイントロが上手い。巧みなイントロといえば、TVシリーズが視聴者に訴えかけるのにマストなメソッドだけど、本作のイントロなど、まさにTV世代のジョーダン・ピールの面目躍如といったところ。

 そして、うってかわって本編の舞台は、広大な平原が広がる田舎の牧場。牧場を営む一家の二代目、本作の主役でもあるOJがいつものように馬の世話をしていると、空気をつんざく音と共に空から小さなコインが落ちて来る。牧場の経営者でOJの父親のこめかみにそのコインが不運にも貫通し急死を遂げる。

 いきなりの不条理な死。牧場を継ぐことになったOJは、やがて上空に拡がる雲に不穏な感情を覚え始め・・・

 本作の予告動画やポスター、それにスチールを見た人なら、およそ本作が、未確認飛行物体に関わる映画であることが予想がつくはず。現にこの負け犬も、何の疑いもなくすっかりそう思い込んでいた。

 而して、確かに本作、序盤はあのスピルバーグの「未知との遭遇」を今さら、完コピしたようなシーンが続々と現出する。だからといって興ざめすることがないのも、冒頭のTVセットのシーンをはじめ、風に揺られて根が生えたように立ち昇るバルーン・ドールなど、ワイドショットで捉えた拡がりのある映像のクオリティーが高いのと、確信犯的にジャンル映画の定石を踏む、そのスタンスにどこか揺るぎない自信が感じられたから。

 その上、映画の進行につれ、ごった煮のように様々な映画のカラーが混在していくのが面白い。ちょっとポンコツな面々が集まって未知の物体に立ち向かうのは「ジョーズ」然り、B級モンスター映画好きなら「トレマーズ」といったところか。

 ところが、いよいよ後半に至って、その物体をめぐり、ピールは予想外の正体を提示してくる。この辺り、凡百のジャンル物だとタカをくくっていた負け犬などはホーと嘆息して少し感心した。

 その上、イントロが、登場人物が子ども時代に体験したトラウマだったことが明かされ、本作がいわば子供時代のそこはかとない恐怖に根差したサイファイであるという重層的な仕組みを持った作品であることが明かされるに至って、感心が賞賛に変わっていた。

 他にもチャプター仕立ての語り口、要所でイカすRBの曲の数々でアクセントをつけるタランティーノ映画を思わせるテイストなど、本作の魅力は尽きない。

 表面的なアイデアのみに固執するシャマランとは違う、一作ごとにテーマの切り口を変えて来るこのジョーダン・ピールという新たなダーク・ホースの動向、馬好きならずとも見逃す手はなさそうですよ~