負け犬の隅には置けない憎い奴「殺しのベストセラー」
どの業界にもいる、隅には置けない男。そんな映画業界の隅には置けない男ラリー・コーエンのペンによる隅には置けないノワール映画の発掘良品(評価 72点)
どんな業界にもちょっと隅には置けない人材というものがいるもので・・そういう奴に限って表舞台では目立たないが、なかなかクレバーなアイデアを次々と繰り出して唸らせてくれたりするものです。今回、ご紹介するのもそんな映画業界の俊英がオリジナル脚本を書き上げた、目立たないけどちょっと隅には置けない逸品。
その人こそラリー・コーエン。監督デビューはB級ホラーの「悪魔の赤ちゃん」。しかし、それこそ1950年代からおびただしい数の脚本に携わり、晩年になってもあのコリン・ファレルのソリッドなサスペンス「フォーン・ブース」のオリジナル脚本を書き上げ、映画ファンを唸らせた後、惜しくも数年前に亡くなった才人の名がふさわしい逸材でした。
本作は言ってしまえば、善玉コンビの二人組が巨悪を成敗する、星の数ほどありふれた手垢まみれのようなバディもの。
ところが隅には置けない男だけに、一味も二味も違うアイデアを注入して、ちょっと他にはないバディノワールに仕立てたのが本作だ。
主人公は警察官あがりの刑事だが、この刑事のミーチャム(ブライアン・デネヒー)は過去に自らの警察署で出くわした体験を基にベストセラーを世に出し、刑事と作家の二足のワラジを履いているという設定。
ここまでなら大したアイデアでもないでしょう。ところがこの刑事とコンビを組むのが何と殺し屋なのだ。そして、この完璧主義の殺し屋クリーブ(ジェームズ・ウッズ)がミーチャムに近付く動機というのが、自分のバイオグラフィを書いてみないか、そうすればまたベストセラー間違いないよ、というミーチャムへの甘い誘惑なのだ。
こんなアイデアなかなかないと思いません?
というわけで本作は、開巻の強奪シーンから、ミーチャムとクリーブの出会い、バディコンビの結成、クリーブの雇い主であり敵役の政界の大物マドロックを倒すまでを95分の尺の中でタイトに見せてくれる、思い出した頃に手に取ってまた見たくなること必至のB級ノワールの逸品といったところか。
監督はこれもB級映画の才人ジョン・フリン。本作のクライマックスはミーチャムの娘を人質に取ったマドロックの屋敷に、漢気たっぷりの殴り込みを仕掛けるだけに、ジョン・フリンのあの傑作アクション「ローリング・サンダー」との血縁も匂わせて、この負け犬のようなB級フリークにはそこが捨て難い魅力にもなっている。
中盤にはバイオグラフィの取材と称して二人して殺し屋クリーブの実家を訪れ、クリーブのパパやママたちとしんみりするなんていう殺し屋映画のミスマッチ感の横溢も才人ラリー・コーエンの面目躍如といったところ。
ちっともメジャーじゃないけれど、隅には置けない掘り出し物をお探しのあなたなら、この「殺しのベストセラー」、きっと楽しんで頂けるのではないでしょうか。