負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の相棒は食欲旺盛でソウルフルな吸血植物!「リトルショップオブホラーズ」

ゴキゲンなR&Bのミュージカルナンバー満載のC級ホラー・ミュージカルコメディ!何をやってもさえない落ち込んだ気分の時のビタミン剤!

(評価 72点)

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その口の動きも実にリアルでグロテスクな吸血植物がR&Bを歌いまくる。ソウルフルなナンバーの数々も実に楽しいミュージカル・コメディの佳作。

 映画ビジネスの人生を通し、たったの1セントも損失を出さなかったと豪語したB級映画の帝王、ロジャー・コーマン。その彼が1960年に製作した、超低予算C級ホラー・コメディ「リトルショップオブホラーズ」。自身で監督、脚本もこなし、花屋に持ち込まれた吸血植物が次々と人を食べてしまうという、ちょっとした冗談がその製作動機だったと語る安っぽいホラーをミュージカル・コメディとしてリメイクしたのが本作。

 正確には、そのオリジナル映画をもとに作られたブロードウェイミュージカルの完全映画化だ。

 ブロードウェイで大ヒットし、今も再演され続けているスタンダードな舞台とあって、とにかくイカす曲、それもその全てがゴキゲンなR&Bのソウル・ナンバーなのが嬉しい。それに、その作品のフォーマットがオリジナル映画そのままにC級ホラーテイスト丸出しで、さらには、豪華なゲストで笑わせてくれるのも実に楽しい。

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 「宇宙からやって来る危険な訪問者は、常に意外な姿をして我々の目の前に現れる」というC級SF丸出しのナレーション直後の、のっけの「リトルショップオブホラーズ」のテーマ曲もイカす、一気にテンションが高まるオープニングがまず素晴らしい。随所で出て来る狂言回し的な、黒人3人娘のその歌が終ると、早速出て来るのが、花屋で見習いまがいの仕事に明け暮れている、本作の主役のシーモア(リック・モラニス)。さえない小男をやらせたらこの男以外にいないというリック・モラニスが実にはまり役。

 そのシーモアが近所の中国人の花屋から買ってきた鉢植えの植物こそが、宇宙から襲来した吸血植物で、閑古鳥が鳴くシーモアの花屋を繁盛させ、幸運を呼び込むのと引き換えにシーモアを支配し、次々と人を食べてしまうという、とんでもないほど安っぽい筋立てが本作のプロット。

 でも、その安っぽいプロットにソウルフルなナンバーが満載されると、こんなにもイカすミュージカル・コメディになってしまうという、ちょっとしたミラクルの見本でもある。

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 随所で笑わせてくれるゲストが豪華。シーモアがひそかに心を寄せる同じ花屋の店員オードリー(エレン・グリーン)の恋人のサディストの歯医者があのスティーブ・マーティン。この歯医者のオリン(スティーブ・マーティン)の「オレはお前の歯医者様」、セイ!ア~!のテーマ曲とともに、繰り広げられる数々のお笑いのシーンを、グレードアップしてくれるのが、マゾの患者役のビル・マーレイ。そして、オードリーⅡと命名したその吸血植物のおかげで、有名人になったシーモアが出演するラジオ番組のホストがジョン・キャンディ

 ニューヨークのダウンタウンのそのまた最下層のスキッド・ロウをイメージした人工的なセットの中で、様々なキャラクターたちがイキイキと躍動している。二番目に出て来るスキッド・ロウをはじめ、サドンリー・シーモアなどなど、絶妙なタイミングで繰り出される数々のナンバーもまた素晴らしくて、こちらの胸もときめくばかり。

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 そして、忘れてはならないのが、このオードリーⅡの特殊効果。監督がマペット・メイキングの第一人者フランク・オズとあって、このオードリーⅡの口が実に良く動く。それも不気味なほど。デザインそのものは、オリジナルをそっくり踏襲した、卵型の蕾の先が、割れた口になっている、少々、卑猥ともいえる単純なデザインだけど、その口の動きが人間の喋る口そのままの動きなのが圧巻。クライマックスに進むにつれ、巨大化するオードリーⅡだが、巨大化してもその口の動きのリアリティはそのままなのが何ともグロテスク。リアル・スケールのマペットなのか合成なのかも判別がつかないほどの精巧さには驚くはず。

 かくして、落ち込んだ時の気分回復剤的な効能すらあるような、開巻からエンディングまでゴキゲンな本作だけど、公開時は、製作費3千万ドルに対し、興行収入がきっかり3千万ドルと大コケした。

 しかし、今も尚、メンタルなビタミン剤として本作が重宝されているのもまた確か。そこで落ち込んでいるあなたも、こんなC級ホラー・ミュージカルコメディはいかがでしょう?