映画館であまりの結末に呆然とし、ただアングリと口を開けていた記憶も鮮明な、あのデビッド・フィンチャーの不条理体感型サスペンス
(評価 76点)
映画にも二通りある。ドキュメンタリーとフィクションだ。フィクションの中でも、とりわけサスペンス、それもミステリアスなサスペンスということになれば、観客は当然、結末見たさにフィクションの世界に没入する。
ところが、その結末にも二通りあって、仰天するほど感心するか、ただ呆然と口をアングリと開けてあきれるかの二つのパターン。
「エイリアン3」を観て、その鋭い映像感覚に早くから瞠目していたデビッド・フィンチャーが自分の予見どおりに「セブン」でブレイクを果たし、嬉しさもそのままに公開当時、期待満々で劇場に駆け付けた。その時、宣伝で大々的に謳っていたのは「セブン」以上の驚愕のラスト。その惹句に釣られた観客が詰めかけた満員の劇場で負け犬は本作を鑑賞したのだった。
序盤、中盤、なるほど不条理な出だしから、フィンチャー流の尖った映像で次々、展開されるくだりには大満足で、負け犬のボルテージも上がりっぱなしだったのを覚えている。
父親譲りの資産家で、自身トレーダーのニコラス(マイケル・ダグラス)は、ある日、疎遠だった弟のコンラッド(ショーン・ペン)から、とあるゲームを提供している会社のことを知らされる。
幼少の頃、父親が自殺したトラウマに今も苛まれていたニコラスは、気晴らしも兼ねてその会社の門を叩く。そして、成り行きで、その会社が提供するゲームに参画するという契約をしてしまう。
とくれば、これはもう、負け犬も垂涎するほど大好きなトワイライト・ゾーンを彷彿とさせる不条理型サスペンス。
映画は思わせぶりなその出だしから、ニコラスに降りかかる様々なイベントに否が応にも興味をそそられる巧みな演出にもそそられ、この負け犬は釘付け状態になって、食い入るようにスクリーンを見つめていたのを覚えている。
面白いのは面白い、それも抜群にといっていい、ところがだ、途中から段々と不安になって来たのだ。
ここまで風呂敷を拡げてどうする気だ。どうやってここまで拡げた大風呂敷を畳むつもりなんだ・・?負け犬が途中から気になりだした不安感とはまさにそれ。
元々、小心者で、心配性の負け犬だ。そうやって不安感を胸に募らせている間にも映画は畳みかけるように、どんどんさらに謎を高めたままクライマッスへと突入していく。
そして、いよいよそのゲームの謎が明かされる結末の瞬間が到来したのだ。果たして、負け犬のリアクションは冒頭に提示した二通りのパターンのいずれだったのか!
・・・と、ここまで煽っておいて、それについては敢えてここでは記しません。とはいえ、映画が終わり、満員の映画館から吐き出される他の観客たちと、すごすごとロビーに向かって引き上げる負け犬の肩は消沈していたとだけ記しておこう。
そんな出来事から、数十年の時を経て、実は本作を再見した。すると、不思議なことに逆に結末を知っているからか、変な期待もせずに肩の力を抜いて、純粋にエンタメとして十分に楽しんだ。以来、まるでマエストロの匠の技を賞味するように何度も見るようになったからつくづく不思議なもの。
もしも、本作、ご覧になっていない方がいたら、体感型結末体験ゲームとして本作に心して挑んでみては如何でしょう。アングリと開いた口から感心したという言葉が発せられるか?それともアングリ開いた口もそのままにアングリーな腹立たしいことこの上ない気分になるか?これは一種のギャンブルですよ(笑)。
人生はゲーム。そして、誰の人生であってもその人生ゲームには、必ず結末が訪れる。願わくば、その結末が煽るだけ煽っておいて肩透かし、というのだけは避けたいものですよね~