負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のエイリアンはヘビメタと女が三度の飯より好きだった件「ヒドゥン」

刑事ものとSFの幸福なるカップリング。次々と人間に寄生するエイリアンを追う刑事コンビの片割れが、またエイリアン。アボリアッツでグランプリに輝いた今なお不滅のB級スピリッツ満載の快作SFアクション

(評価 72点) 

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ヤドカリのような寄生獣エイリアンを追え!その宿主はヘビメタと女好き。ポンコツB級フアン垂涎のバディSFアクション。

 アクション映画における確固たるジャンルともいえるバディもの。まったく相反するキャラクターがコンビを組んで、何かに立ち向かっていくという定番だ。それを語るとき、決して抜きには語れないコンビが刑事たち。はみ出しコップのような二人が巨悪に立ち向かっていくという図式なら、誰でも飽きるほど見たことがあるだろう。

 だから、そこには当然、ニッチな変わり種というものも派生するわけで、たとえば、意外なコンビでは、副業作家の刑事が、オレの伝記を書いてくれと依頼してきた殺し屋とコンビを組むジョン・フリン監督による、この負け犬も未だに好きな、なかなかイカすネオ・ノワール「殺しのベストセラー」があった。

 もっとぶっ飛んだところでは、刑事がエイリアンとコンビを組む「エイリアン・ネイション」が記憶に新しい。

 本作の設定もその類型だ。ただし、「エイリアン・ネイション」の刑事と見た目もモロのエイリアンのコンビと違い、本作でミソとなるのが、人間に寄生するエイリアン。だから、見た目は一見、普通の人間同士の刑事コンビと変わらない。しかし、それを逆手に取った、随所でインサートされる秀逸なギャグのアクセントのオフビート感がイカす、B級テイスト満喫の快作になっている。

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 LA市警のコップとコンビを組むそのエイリアンに扮するのが、デヴィッド・リンチ作品でお馴染みのカイル・マクラクラン。本作の成功は、このカイル・マクラクランの起用にあったといっていい。端正でナィーブ、実直そのもののカイル・マクラクランがただ歩くだけで、人間の姿を借りておぼつかないエイリアンに見えてしまうから不思議なもの。

 こうした本作の骨子は、のっけからB級路線。突如、LAで発生した凶悪事件。しかし、銃撃戦の後、逮捕した犯人は、まるで犯罪とは縁のない、平凡なはずの一般市民。ということで、解せない捜査担当の刑事ベック(マイケル・ヌーリー)の目の前に現れたのが、FBI捜査官を名乗るギャラガー(カイル・マクラクラン)。ギャラガーは、病院で犯人と同室にいて、そのまま姿をくらました男に、エイリアンが寄生していると確信し、その男を追うよう、ベックに指示するが、交通違反の前歴しかないその男のことなどはなから取り合わない。

 だが、エイリアンに寄生されたその男は行く先々で凶行に及び、二人は結束して男を追う。かくして、刑事とエイリアンに寄生された刑事という、新たなコンビの誕生とあいなるのだ。

 本作で面白いのは、この悪玉のエイリアンが、ヘビメタと女に目がないこと。いつもラジカセでヘビメタを大音量でかき鳴らし、女の尻を追いかけていないと気が済まない。

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 追う側のギャラガーのオトボケぶりのアクセントも秀逸。ベックのマイホームに呼ばれ、ベックの妻子とディナーをともにするテーブルの席で、こわごわと料理を口にする仕草が笑える。ギャラガーは、自分の母星で、自分の妻を殺したエイリアンを追って地球にやって来たという設定。だから、はじめて口にするアルコールでたちまち酔いつぶれ、ベックが差しだした酔い覚ましの錠剤を、水も飲まずに、そのままガリガリ食べてしまう。

 このエイリアンが他の母体に乗り移るのは宿主が瀕死になって用なしになるタイミングなのだ。そして、次にエイリアンが乗り移るのが、ナイスバディなストリッパーのお姉さん。派手な銃撃戦の果て、屋上にこのストリッパーのお姉さんを追い詰めたギャラガーが、ズイっと突き出す武器が、母星から持参したとおぼしき自らのアイテム。これが、「コブラ」のサイコ・ガンを思い切りチープにしたようなチャチな銃なのが微笑ましい。これを決然と構えるマクラクランの姿が妙に決まっているのもまたグッド。しかし、ここでまた取り逃がしたエイリアンが最後に乗り移るのが、次期大統領候補の上院議員というのも定石通り。

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 クライマックスは、そのエイリアン議員を抹殺しようとするギャラガーをベックたちが阻止する展開となるが、その矢先、議員に乗り移る寸前にエイリアンが宿っていた仲間の刑事に、ベックは撃たれてしまい・・・・

 結局、ギャラガーが、これまた秘密兵器のような放射器で、最後にエイリアンもろとも議員を焼き殺し一件落着。その後、病院で息を引き取るベックを看取ったギャラガーが取る行動の、お約束のヒネリを交え、ビターなハッピーエンドとなる本作。これは、さしずめ大味な大作に飽きたら食ってみたくなる、アイデアのスパイスをピリリと効かせた、チープなファーストフードといったところでしょうか。