負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

英国スパイがオリエンタルなアジアン・テイストに思い切りベクトルを振ったらA級にあるまじきB級テイストになったけど、それが案外美味だったりした件 「007黄金銃を持つ男」

負け犬の今夜のディナーはディープでキッチュなアジアの料理。黄金の年1974年のメモリアル的なボンド・シリーズの異色作にしてチープなテイストが魅力の佳作

(評価 70点)

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1974年のメモワール

 1974年といえば、この負け犬には決して忘れられない年。そう、この負け犬が、あの「燃えよドラゴン」と遭遇した年。そして世界にドラゴン旋風が吹き荒れていた年。マーチャンダイジングの戦略には一つの定石がある。そう、流行に乗り遅れるな!というわけで、英国ブランドのはずのボンド・シリーズが、前作「死ぬのは奴らだ」で成功したアメリカナイズの路線をさらにパワーアップさせて、今度はそのドラゴン・ブームにまでちゃっかり便乗したかのようなチープ路線に転じたのが本作。

 本作、確かに公開時には、タイトルにもなっている黄金銃の分解図などが色々な雑誌の誌面に踊りつつも、あからさまなブームの便乗も災いしたのか、評判も悪かった。この負け犬も初見の際には、失敗作としてそのまま記憶の底に封印したままになっていたほどだった。

 しかし、ふと思い立って見返してみたら、不出来どころか、チープなテイストが逆に魅力の、上出来とは言えないけど、エンタメとしては充分に及第点の作品であったことに気付いて心地よく驚いた次第。

 

007ブランドのB級バカ映画

 謎の殺し屋スカラマンガ。そのスカラマンガがボンドの首を100万ドルの報酬と引き換えに狙っている。それを知らされたボンドは一路、タイのバンコクへ、というわけで、いつもなら世界的規模の陰謀のはずのプロットが、うんとスモールスケールになっていることからも本作がいささか安っぽいのは自ずとわかる。

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 その後の展開も定石通り、ボンドガールのグッドナイト(ブリット・エクランド)と落ちあい、スカラマンガの行方を追ううち、スカラマンガの愛人アンドレア(モード・アダムズ)からスカラマンガの居所を聞き出すうち、アンドレアが殺され、グッドナイトがスカラマンガに囚われてしまう。そしてボンドはスカラマンガのアジトの島へと・・と、何から何までいつもの幕の内弁当。それがチープとくればただの凡作と言われても仕方ない。

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 しかし、それでも本作が隅には置けないのは、やっぱり、うまく流行に便乗した色鮮やかなオリエンタルなテイストが魅力的だから。バンコクの街並みやマーケット、いつものボート・チェイスのバックグラウンドもタイの水上生活の風景だから逆に実に新鮮。

 露骨にドラゴンを意識した、ボンドが似合いもしない空手着を着ての下手糞なアクションの末に、裸足で逃げ回るシーンもご愛敬。おまけにクライマックスのスカラマンガとの対決シーンも「燃えよドラゴン」から拝借した鏡を使ったショウダウンとくれば、パクリを通り越して、今見たら案外楽しい。ボンドガールのブリット・エクランドとモード・アダムズも、どちらもゴージャスで申し分ない。本作で狂言回しとなるのが、小人の悪役ニック・ナック。このキャラクターが最後までコメディ・リリーフとして機能して本作を引き立てるのに一役買っている。

 とまあ、総じてみれば、オリエンタル・ムード満載のオモチャ箱として楽しめる本作だが、難点は、やっぱり見せ場に乏しいことか。最大にして唯一の見せ場が、公開時にも盛んに宣伝された車が一回転ひねりして川を飛び越えるあの伝説的な超絶ジャンプだけではちとサビしい。

 それでもリリが歌う本作のテーマ曲が、あのハリウッドのパニック映画にオカルト映画、それにとどめのドラゴン・ブームに燃え盛っていた極私的黄金の1974年のむせ返るノスタルジーを感じさせてくれるほどにイカすので良しとしましょう~というところですかね~