負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の背徳と凌辱のエロスこの世でもっとも美しい人妻「昼顔」

白い肌にしなるムチ!ドヌーヴの超絶的な美貌に文芸の香りと背徳のエロスが交錯する倒錯の世界!

(評価 76点)

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この世でもっとも美しい人妻

 鈴なりの紅葉の中を一台の馬車がやってくる。馬車に乗るのは美貌の妻を伴った一組の夫婦連れ。やがて夫は馬車を止めさせ、妻に馬車を降りるよう命令する。しかし、妻は従わない。そこで夫は召使の男たちに命じ、妻を無理やり引きずりおろさせ森の茂みの中へ連れていき、そのまま木に縛り付けるや、いきなり妻の服を剥がせる。そして、剥き出しになった純白の背中をめがけ、召使たちにムチをふるわせるのだ。

 ムチ打たれ、苦悶の表情を浮かべる妻。そして、夫は如何にも野卑な召使に命じ自分の目の前で妻を犯させる。そして、その妻こそ目の覚めるような金髪も鮮やかな超絶の美貌を誇るカトリーヌ・ドヌーヴなのだ、とくればこれは世の男たちの夢の具現化。

 こんな衝撃的なシーンで幕を開ける本作だが、このプロローグ、実は男たちの夢ではなく、ドヌーヴ扮する美貌の人妻セヴリーヌの妄想なのだ。連れ合いの医師の夫は、非の打ち所がない、それ故、満たされない欲求不満から来る妄想に昼夜さいなまれているセヴリーヌのアヴァンチュールな日常を描く本作は、堂々、ヴェネツィア国際映画祭グランプリを取った文芸映画でありながら、その世界観は見事にポルノチック。そして、ドヌーヴのあまりの超絶的な美貌ゆえ、とめどもなく下半身をも疼かせてくれるエロスに満ちた作品でもある。

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いかがわしき倒錯の世界

 今や、すっかり世のよろめきドラマの固有名詞として定着した本作のタイトル「昼顔」。実はこのタイトルは、そのまま本作のセヴリーヌの源氏名でもある。

 完璧な夫と生活を共にするがゆえに、常にエロい妄想にとらわれているセヴリーヌは、ある日、夫から売春クラブの存在を聞かされ、異様な胸騒ぎを覚える。そして、女性漁りが趣味の夫の友人にその売春クラブの所在地を冗談半分に教えられる。

 セヴリーヌは、はやる気持ちを抑えきれずそのクラブを訪れ、たちまち女主人に見染められ、マダムから直々に「昼顔」という源氏名を授かるや、日中はパートタイマーの主婦ばりに昼時から5時までのパートタイムの売春婦、夜は貞淑そのものの医師の妻という二重生活がこうして始まる。そして、そこから展開するのは、人間のフェティシズムに満ちた、いかがわしき倒錯の世界なのだ。

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 その売春クラブにやって来る客は様々。ひたすら罵倒されることに快楽を覚えるマゾヒズムの男。死体にリビドーを覚える死体フェチの男には屋敷まで出向いて死体になりきっての出張サービスまで。こうして繰り出される変態的な局面の数々にも、表情一つ変えずに、なんの抵抗もなくセヴリーヌが受け入れるところは、奇妙でもあり可笑しくもあり、まるで不思議の国のアリスが性のワンダーランドに迷い込んだような感覚すらある。それもひとえに、ドヌーヴの非の打ち所の無いクール・ビューティのなせる業なのか、いずれにせよ、絶世の美貌のドヌーヴが醸し出すこの倒錯の世界は、極限なまでにポルノの世界といっていい。

 クラブで、こうしてたちまち売れっ子になったセヴリーヌだが、マリエルという若者がセヴリーヌに入れあげ夢中になり始める。危険を感じたセヴリーヌは辞めるとマダムに告げクラブを後にするのだが、自身も前科者のマリエルは、札付きの仲間からセヴリーヌの住所を教えられ、セヴリーヌの元に押しかける。

 

妄想のただれた世界

 本作の最大の特長は、イントロのムチ打ちのシーンからも分かるように、現実と妄想がそのまま地続きに並列的に描かれるところ。だから見ている側は妄想なのか現実なのか区別がつかない。しかし、その現実と妄想の境界線が消失した世界こそが本作の最大の魅力でもある。これはソリッドな前衛作家として名を成した監督のルイス・ブニュエルのまさに面目躍如といったところ。

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 ここで描かれるセヴリーヌの妄想は様々。ムチ打たれ、野卑な男に凌辱される妄想をはじめとし、男たちが自分目当てに殺し合いの決闘をする妄想など、鬱屈とした性的な悶えにも似た数々の妄想が描かれるが、そもそも売春婦というメタファーが高貴な女性ならではの、メタファーであるように、根底にあるのは辱められたい、汚されたいという願望に他ならない。なかでも、もっともいかがわしいのは、純白のドレスを纏ったセヴリーヌに泥が投げつけられるシーン。ドヌーヴの手足と言わず体と言わず顔面にも容赦なく汚いヘドロのような泥が浴びせられる露骨きわまりないこの汚辱シーンは、ドヌーヴの絶世の美貌もあいまって思わずオカズネタにしたくなるほどにエロい。

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 本作のクライマックスからエンディングにかけても、まさに妄想と現実が混濁した倒錯の世界。自分に入れあげ自宅に押しかけて来たマリエルは、セヴリーヌに諭され、家を出た直後、自動車事故を起こし、追ってきた警官に射殺される。そこから展開するくだりはセヴリーヌの夫がいきなり何の説明もなく全身マヒの車椅子の生活になっていて、その夫をセヴリーヌが献身的に看病するという意表を突く、くだりとなるが、誰もが、現実なのか妄想なのか分からないまま、エンディングのエピローグでハッと夢から覚めたような感覚に見舞われることになる。

 どこか晴れ晴れとしたクール・ビューティそのもののドヌーヴのエンドショットで幕を閉じる本作、とにかくエロと文芸とが見事に調和を成した稀有で見事な作品だ。

 

カトリーヌ・ドヌーヴのもう一つの顔

 人妻の貞淑と汚辱がパラレルに進行するシュールな世界と、人間のフェティシズムの世界をセンセーショナルに描いた本作で一躍トップスターとなったカトリーヌ・ドヌーヴ。その昔、「ロードショー」などの映画雑誌のカトリーヌ・ドヌーヴのグラビアを見て、こんな人造的な非の打ち所の無い美女がこの世にいるものかと。いつまでも眺めていたのを今でも覚えている。

 そんなドヌーヴがフランス映画界の重鎮として、長きキャリアにわたり活躍したのも周知の通り。御年、80近い老女となった今でも、美貌の面影に衰えが無いのは脅威でもあり嬉しくもある。人間のフェチの世界を描いた「昼顔」が鮮烈なドヌーヴ。老女フェチの人にとっては今でも下半身が疼く対象なのは嬉しい限りというところでしょうか。

 

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