負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬も大興奮!電動ドリルとポルノ女優のいやらしい肢体「ボディ・ダブル」

サイコキラーが電動ドリルで抉るのはゴージャスなポルノ女優の腹!メラニー・グリフィスのナイスバディも拝める、映像の魔術師ブライアン・デ・パルマのキンキーでキッチュなエロチック・サスペンスの怪作!(評価 74点)

f:id:dogbarking:20220220110656j:plain

 



アメリカン・サイコ

 「だってデ・パルマが好きだから!」といきなりのラブコールで始まってしまう本作。80年代のヤッピーからなるXジェネレーション作家の代表格ブレット・イーストン・エリスのセンセーショナルなベストセラー作品「アメリカン・サイコ」に、本作に言及するくだりが出てくる。その小説の主人公のベイトマンが近所のビデオショップに立ち寄り、本作をレンタルするくだりだ。

 ベイトマンはこの「ボディ・ダブル」に出てくるサイコキラーが電動ドリルで女性を惨殺するシーンのマニアックなファンで、小説の中でもう30回以上もこのビデオをレンタルしていると独白する。それに思わず頷いてしまう人もいるのではなかろうか。かくいう負け犬もその一人。

 そもそもの出会いは「キャリー」で、それをきっかけに最初期の「悪魔のシスター」を見てインデペンデンスなスタンスとエンタメのバランスを巧みに操るデ・パルマの若々しい才能に魅了され、結局、後年の作品まで追いかけをするが如くに見ていたデ・パルマの、比較的目立たない扱いのこの作品だが、負け犬は勇んで初日に見に行った記憶がある。

 「いつもながらのヒッチコックのパクリ」だの「チープなエログロ趣味の安手の作品」などと、デ・パルマのフィルモグラフィではつとに評判が悪い本作だが、かくいう負け犬は大満足で劇場を後にした。

 確かにチープで、いつながらのヒッチコックのパクリ丸出しだが、それでも嫌いになれなかったのは、キンキーでキッチュな方向にベクトルを振り切って、ポルノ映画への偏愛まで吐露するデ・パルマの映画愛が感じられたからに他ならない。

 

ポルノチック・サスペンス

 そもそもデ・パルマがポルノというジャンルに思い入れがあるのは明白。元々、デ・パルマキャメラを振り回し映画業界に登場してきたのも、粗雑なポルノ映画、いわゆるブルー・フィルムと呼ばれる映画が氾濫していた60年代の後半だった。最初期のもっとも有名なコメディ作品「ハイ・マム」でも主演の青年ロバート・デ・ニーロは、ポルノ映画の監督志望の青年だった。

 そんなデ・パルマヒッチコックの後継者というレッテルを張られながら、ワンパターンと酷評されるのを知りつつ尚も、ヒッチコックエピゴーネンを作りたがるスタンスは、やはり自主映画、それもキッチュでアンダーグランドな映画のバックボーンを持つデ・パルマの紛れもない性なのだ。

 そんな映画愛の象徴のように本作の主役は売れない役者のジェイク(クレイグ・ワッソン)。今日も撮影現場でチープな怪奇映画の吸血鬼をやらされているが、閉所恐怖症が災いし、役を干されてしまう。おまけに、恋人が他の男に騎乗位で跨るのをモロに目撃し、追い出されてはホームレスに成り下がる始末。

f:id:dogbarking:20220220110720j:plain

 そんなジェイクはオーディションで声をかけてきたジムに居留守の番を頼まれ、渡りに舟とばかりに高級マンションにステイホームすることに。ところが小高い丘に立つペントハウスのようなそのマンションから見下ろす向かいには、グロリア(デボラ・シェルトン)というフェロモン全開のグラマラスな美女が住んでいて夜な夜な悩ましくストリップまがいにエキササイズする姿がバッチリ拝めてしまう。ところが、ある夜。出歯亀根性丸出しで、いつものようにジエイクがグロリアを望遠鏡で覗いていると、部屋に侵入した電動ドリルを振り回す大男のインディアンに腹部を突きさされグロリアが惨殺する現場を目撃してしまう。

f:id:dogbarking:20220220110737j:plain

 ん?主人公が閉所恐怖症?ん?望遠鏡で覗きをしていたら殺人現場を目撃?ちょっと映画に詳しい人なら本作のネタがあのヒッチコックの「めまい」や「裏窓」のパクリであることはすぐに分かる。それでも決して興ざめしないのは、とにかく本作に出てくる女優たちの、フェロモン全開のそのエロ度が半端ではないから。

 

ウエルカム トゥ ザ・ポルノワール

 何と言ってもまずドリルで惨殺されるグロリアのデボラ・シェルトンのエロいことといったら。グロリアにすっかり魅せられたジェイクがショッピングモールまでグロリアを尾行する。そこのランジェリーショップでパンティを買い求めたグロリアが、それまで履いていたパンティをゴミ箱に投げ捨てる、それを目撃したジェイクはそのパンティを拾い上げると思わずポケットに入れてしまうが、その瞬間、そのパンティの匂いがこちらまで伝わって来る感触に見舞われる。それもこれもグロリアに扮するデボラ・シェルトンのそのフェロモンの発散度が並々ではないから。これもデ・パルマのポルノとハードコア女優たちに注ぐマニアックな偏愛の賜物とも言えようか。その後、本作はまさにポルノのめくるめくアンダーワールドへと観客を誘ってくれる。

 グロリアの死の衝撃も薄れた頃、ジェイクは、たまたま見ていたケーブルテレビで放送していたハードコア・ポルノのCMに釘付けになる、目の前で細身ながらグラマラスなナイスバディを惜しげもなく晒す女優のパフォーマンスのその仕草が、毎夜見ていたあの殺されたグロリアにそっくりだったのだ。これは何かあると睨んだジェイクは役者というメリットを生かし、ポルノ映画の男優募集に応募し、撮影現場に潜入する。そこでジェイクが出会ったのが、グロリアそっくりのパフォーマンスを披露していたポルノ女優ホリー(メラニー・グリフィス)だった。

f:id:dogbarking:20220220110759j:plain

 エイティーズの名曲フランキー・ゴーズ・トゥー・ハリウッドのゴキゲンな「リラックス」が流れる中、ジェイクがポルノ、それもバリバリのハードコア・ポルノの撮影現場巡りをするシーンがいい。あの時代のMTVのクリップを彷彿とさせるヴイジュアルもイカすこのシーンはもとより、ジェイクが見ているテレビに映るハードコア・ポルノのクリップがいかにもそれらしくてグッド。

 実は、80年代の後半の時代、まだTSUTAYAのような大手フランチャイズがレンタル・ビデオ業界になかった時代。レンタル・ビデオ屋は完全に個人事業者が経営する小さな店がひしめきあっていた。だから、店によって品揃えも様々で、中には、ボカシすら殆ど入っていないような洋モノのハードコア・ポルノを堂々と並べている店もあったのです。負け犬も半ばビクビクしながら、そんなハードコア・ポルノを借りて見ていたような懐かしい時代だった。

 

パクリだって構わない

 撮影現場で熱い絡みのシーンまで演じたジェイクはポルノのプロデューサーだと偽ってホリーを、自分が殺人を目撃したマンションに連れてくる。そこで、詰問した後、明らかになる真実、そしてクライマックスは?とくれば、そもそも本作が「めまい」のパクリである以上、想像がつく方も多いに違いない。

f:id:dogbarking:20220220110829j:plain

 かくも、パクリや剽窃の度すら越した何から何までヒッチコックの「めまい」そのままの本作。とはいえ、いつもながらのピノ・ドナッジオの甘美で流麗なスコアに乗って、ショッピングモールでグロリアをキャメラが追っていく、うっとりするようなトラッキングショットや、「めまい」から拝借した、激しく絡み合うグロリアとジェイクの周囲の景色が、メリーゴーランドのように回転していくめくるめくシーンなど、デ・パルマならではのビジュアルが満喫できる本作。それに加えて、華奢な肢体を惜しげもなく晒すメラニー・グリフィスのエロいシーンなどエロチックなスパイスを随所に効かせた本作が魅力的なのは間違いない。

f:id:dogbarking:20220220110847j:plain

 

セルフ・パロディの映画愛

 本作、一件落着した後のエピローグがまた楽しい。吸血鬼の役に舞い戻ったジェイクがシャワー室で女優に噛みつくシーンは、そのまま自身の代表作「殺しのドレス」のアンジー・ディッキンソンがシャワー室でエロい妄想にふけるシーンのセルフ・パロディだ。

f:id:dogbarking:20220220110917j:plain

 そこでは、本作のタイトルのボディ・ダブルそのままに、オッパイがアップになるカットだけスタンドインの別の女優のカットにすげ変わる。

 かつてデ・パルマは、ヒッチコックのパクリだと激しく非難するジャーナリストたちを前に、「所詮、映画は折衷主義の芸術だ」と涼しい顔で述べていた。それは、ただの開き直りの言葉ではない、ちっぽけな自主製作映画から、叩き上げで自分のスタイルを確立したデ・パルマの自信と映画愛に裏打ちされた発言だ、とこの負け犬は思う。

だから「やっぱりデ・パルマが好き!」なのです

 

dogbarking.hatenablog.com