負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の嗚呼!洋ピンポルノのエロき欲望「ナチ女秘密警察SEX親衛隊・サロン・キティ」

ナチスドイツの鉤十字と洋ピンポルノの悪魔のドッキングはとてつもなく猥雑で退廃の香りに満ちていた(評価 74点)

「女刑務所発情狂」「女子学生㊙レポート」「陰獣の森」「マラスキーノ・チェリー」・・毒々しいタイトルに、肌がマネキン人形のようなドギツい着色の猥雑な写真のコラージュ。見るだけで股間がムズムズしてくる洋ピンのポスターに悩ましい青少年時代を送ったあなたならきっとその脳みその襞に刻印されているはず。

 そのタイトルこそ、「ナチ女秘密警察SEX親衛隊・サロン・キティ」。その昔、「ロードショー」や「スクリーン」といった洋画専門の雑誌の片隅に掲載されていた洋物ピンク映画のモノクロ写真が総天然色で動き出した、本作はそんなときめきを彷彿とさせる世界といえようか。

 開館は秘密クラブ。男装と女装を体の半身に施した異様なダンスからして、むせ返るような陶酔の世界が香り立つ。そんな演出を手掛けるのは洋ピンポルノの帝王ともいうべきティント・ブラス。

 その世界観に欠かせないのがルキノ・ヴィスコンティの作品群でも退廃の色香を画面の隅々まで振りまいていたヘルムート・バーガー。本作の主役のSS親衛隊の隊長バレンベルクがそのヘルムート・バーガーなのだ。

ある政府高官が、ドイツ国内の純血のアングロサクソン系の美貌の乙女たちを参集せよとヘルムート・バーガーに命令を下すところから本作の物語は幕を開ける。

 そして、ヒットラーの演説のモノクロ映像から展開される生々しい豚の屠殺シーンがまずは衝撃的、頸動脈を断ち切られ噴出する血の中で猥雑なジョークを言いながら女たちの体をまさぐる男たち、といった光景からして猥雑な世界観に満ちている。

 かくして「ハイル!ヒットラー!」その号令と共に、国内各地から呼び集められた美女たちが粛々と横一列になって全裸になるシーン。女たちはこれから性の奥義を仕込まれ、政府高官たちに取り入り、その手練手管で高官たちを陥落させ、秘密を聞き出すことで忠誠を誓った祖国ドイツに体を捧げることになるのだ。本作のメインプロットはそれが骨子となる。

 直後、美女たちがヘア丸出しで一斉に行進を始めたと思ったら、ここから、高官たちが壮大なマーチを演奏する中、いきなり全裸の男女たちが交わり合って、痴態を繰り広げる。

 その異様さは、エロティシズムと相まって、ティント・ブラスのフェティシズムへのこだわりが画面からあふれるように発散されている。

 そして、ロングショットになると、洋ピン独特の全面ボカシになってしまうのが奇妙に生々しかったりするのです・・。

さて、ここからはティント・ブラスならではのアブノーマルな展開が全開。

 独房に収容された全裸の男女もしくは女たちのカップルたちが、隊長のバレンベルク(ヘルムート・バーガー)が覗き窓から観察する中、カップルたちが繰り広げるノーマルセックスやレズビアンプレイにオーラルプレイ、果てはレイププレイを観察し、そのテクニックの是非を審査するところからキンキーな世界そのもの。

 異常な監禁病棟のアセイラムで施された訓練で、セックス兵器の娼婦と化した女たちは、いよいよ高級娼館サロン・キティに送り込まれることに。

 この高級娼館の女主人こそが娼館の名前の由来のマダム・キティ(イングリッド・チューリン)というわけなのだ。

 これもまたルキノ・ヴィスコンティ映画でもお馴染みのイングリッド・チューリンがなまめかしく歌い踊るサロンの宴、このシーンはヴィスコンティ映画の退廃に、毒々しいエロスをまぶしたようなテイストが横溢している。

 娼館の個室で繰り広げられるプレイはすべてモニタールームで盗聴されている。レズにソドミー、サドマゾプレイ。このくだりはまさに性のパノラマ。

 後半の物語を牽引していくのが、美女たちの中でひときわコケティッシュな魅力に満ちたマルガリータテレサ・アン・サボイ)。マルガリータの魅力にバレンベルクが虜となったことから、サロン・キティの歓楽の宴がナチスの終焉を暗示するかのように崩壊していく。

 ナチスの鉤十字のストッキングだけを身に着けた全裸の女。その肢体にヒットラーが演説する8mm映像を投射し、それを見ながらマスタベーションする太った高官。本作は、崩壊のデカダンスを描きながらも、そんなフェティッシュなシーンはふんだんに出てくる。

 やがて、邪魔者になったバレンベルクを失墜させるべくマルガリータがスパイ役となるところからが本作のクライマックス。

 軍服を身にまとったバレンベルクとマルガリータの激しくもキンキーなセックスは盗聴によって筒抜けとなっている。かくしてバレンベルクが企てていたクーデターは白日の下に晒されてしまうことに。

 全裸のバレンベルクがサウナで射殺されるシーンが本作のエンディング。サロン・キティ作戦の首謀者が反逆者として処刑される、このエンディングは、まさに木乃伊取りが木乃伊になるといったところでしょうか。

 エンドクレジットは空爆によって粉砕されたサロンの窓ガラスの破片が舞い散る中、高らかな笑い声をあげて享楽するマダム・キティとマルガリータのシルエット。

 とにかく本作は洋ピンそのものといっていい淫らでフェチなエロいシーンには事欠かない、それでいてヴィスコンティ映画のテイストをおどろおどろしい見世物小屋の安っぽさにトランスフォームさせたかのような異様なテイストは満喫できる。

 かつて誰もがモノクロのピンナップを見て悶絶した中二病の性の悶えとデカダンスの香り、本作は懐かしくも青々しい、そんな奇妙な魅力に満ちた一作でした。