負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の666(ロクロクロク)は悪魔誕生ならぬメガヒットのキーワード「オーメン」

映画は作品だけではヒットしない!宣伝戦略との相乗効果でものの見事にモンスター級のヒットをとばしたオカルトホラーの傑作!

(評価 78点)

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映画はアイデアが命!それに劣らず生命線ともなるのが宣伝だ。当たってナンぼの世界、宣伝良ければ全てよし。更に中身も良ければ云うことなし。

 それは、負け犬がまだ中学にあがったばかりの頃だったろうか。とある金曜の夕刊に映画の広告が掲載された。一面、全面が黒く売り潰された背景に、ハイライトの光の中、くっきりと浮かび上がるその文字は、数字の”666”!映画を煽る宣伝も、これみよがしの惹句も、それにキャッチコピーすら何も無い。たった三つの数字だけ。このインパクト抜群の広告に魅了されない、いたいけな映画小僧たちなどこの世にいるだろうか。

 早速、翌週の月曜日から、学校のクラスでは、その話題でもちきりになった。時はまだ、あの「エクソシスト」の余韻も冷めやらず、マンガの世界でもつのだじろうの「恐怖新聞」などが大ヒットを飛ばしていたオカルト・ブーム(懐かしい・・)の真っただ中。やがて、TVのスポット映像でも、本編屈指の殺しのシーン。残酷ガラス板ギロチンの刑の映像が流されるにいたって、どんどん、そのトピックはヒート・アップ!あの「エイリアン」の大ヒットの時と同じように、日本人には聞きなれない「オーメン」という単語のインパクトもあいまって、加熱する一方だった。つまるところ、負け犬を含むバカな映画小僧たちが毎日、「オーメン♪ラーメン♪冷ソーメン♪」などと、替え歌まじりに囃し立てるようになるまでは、秒速と言ってもいい時間だったのだ。

 かくして、日本でも当時、超大ヒットとなった本作だが、本国アメリカでのメガヒットぶりは桁が違った。本作の製作費は、グレゴリー・ペックといった大御所が主演にも関わらず、たったの280万ドルという超低予算。それが本国だけで何と、6千万ドルを上回るメガヒットとなった。後年、映画小僧から映画オタクに昇格し、古本屋を漁っていた頃、入手した「キネマ旬報」のバックナンバーの本作の特集号には、原田真二氏による当時のヒットぶりをルポする記事が載っていた。

 そこに書かれていたのは、膨大な数の客たちが次々と映画館に押し寄せる狂騒の様子と共に、本作ヒットの冷静な分析だった。

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 この世には、ベストセラーとなった書物は数あれど、決して他の追随を許さない絶対的なベストセラーが一つだけ存在する。それは聖書だ。

 本作「オーメン」の勝因は、まずは聖書でも新約聖書の片隅に記された、獣の数字と言われる”666”に目ざとく目を付けた脚本家デヴィッド・セルツァーの勝利だと断言しても間違いは無い。

 その”666”をキーワードに、古くからある取り替え子の因縁話に、悪魔の子というアイデアミックス。そして、それらを、悪魔をめぐる数々の蘊蓄でリファレンスマニュアルのように、味付けしてみせたその脚本は、エンタメとしては文句なしに完璧なものだったといってもいい。

 エンタメとして申し分ないだけではない、世界一の文明国家でありながらクリスチャンの宗教色が色濃く残る米国社会の人々の、深層心理に、この悪魔のリファレンスマニュアルが刻印のように撃ち込まれるのは、ある意味、必然でもあったのでしょう。

 外交官ロバート・ソーン(グレゴリー・ペック)の実子が生後間もなく死亡。悲嘆にくれるソーンの元に神父がある提案を申し出る。それは、生後間もなく母親が死亡した、その赤子を自分の子として授かることだった。しかし、平和で仲睦まじいわずかな家族団らんの後、起こり始めたのは数々の予兆だった。

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 流麗なジェリーゴールドスミスの曲が流れる穏やかなイントロの後、その子供ダミアンの5才の誕生日のパーティのさなか、乳母が首吊り自殺するショックシーンの衝撃は今なお健在。その後、連続する殺しのシーンの際、BGMが男女の重苦しいコーラスによるミサの楽曲風に変わって一気に、転調するアイデアも抜群。ダミアンをめぐる疑惑が確信に変わり、最後のクライマックスに至るまで、巧みなテンポで飽きさせないのは、まさに職人監督リチャード・ドナーの手腕によるところ。

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 原田氏が「キネマ旬報」の中で、本作を評し、悪魔をめぐる、数々の蘊蓄に加えて、イタリアからロンドン、そしてダミアンにとどめを刺すための剣を入手するために中東へといった、フレデリック・フォーサイスの政治サスペンスばりの国際的なスケール感と神秘主義的な冒険もののテイスト。本作メガヒットの秘訣は、それをバランス良く配した脚本にある、としていたのが印象的だった。

 「決して一人では見ないでください」のキャッチコピーで有名な「サスペリア」をはじめ、宣伝でヒットした映画は数あれど、本作は、宣伝効果と、映画そのものエンタメとしてのクォリティーのバランスがもっともよく取れた希少な映画ともいえるのでしょうね~

 しかし、気になるのがメガヒットした映画の主役を張った子役の末路。「エクソシスト」のリンダ・ブレア然り、「E.T.」のドリュー・バリモア然り、いずれも順風満帆とはいかない人生となるのが、お定まりの末路だけど、この名前も大ヒットの要因だったダミアンを演じた子役は、今はどうなっているのでしょうね~?いずれにせよおっさんになっていることだけは間違いないはずですけどね。