負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬も肌の色を超えたリスペクトに涙「夜の大捜査線」

南部の夜の熱気、トップアクターたちのベストパフォーマンス、鮮烈なキャメラ、そしてクインシー・ジョーンズの音楽、来たる黄金の70年代の到来を告げる傑作!

(評価 78点)

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イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・ナイト

 夜の帳が降りてもうだるような熱気が渦巻くミシシッピーのとある田舎町。夜行列車から降り立つ一人の男、その頃、いつものように、グラマーな十代の女の子の裸体を覗き見しながらパトロールしていた地元の警官サム(ウォーレン・オーツ)が発見したのは、一人の男の他殺体だった。

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 こんなイントロから始まる犯罪サスペンスに巧みに人種問題を絡ませた傑作は、後に数々のアカデミー賞にも輝いたのも頷ける、未だに色褪せない魅力を放ち続けている。

 その立役者は何と言っても主役の二人、黒人ながら、殺人課トップの切れ者都会派刑事ヴァージル・ティップスを演じたシドニー・ポワチエ。そして、南部の差別意識を隠そうともしないレッドネックな地元の警察署の署長のギレスピーを演じたロッド・スタイガー。どちらもオスカー男優のこの二人の名演に尽きる。

 だが、決してそれだけではない、名ライター、スターリング・シリファントのシナリオはもとより、昔、本作が日曜洋画劇場で放送された時、司会のあの淀川長治が絶賛していた、木立の中を突っ切り、橋を逃げる容疑者を望遠で捉えた鮮烈なキャメラ・ワーク。そして、ソウルフルなパンチが心地いいクインシー・ジョーンズのゴキゲンな主題歌と、すべての要素がバランス良く緊密なアンサンブルを奏でる、その後の黄金の70年代のアメリカ映画の台頭を予感させるにふさわしい傑作だ。

 

白と黒のバラード

 警官モノといえば本質的にバディものの体裁を備えた映画が多いが、本作におけるバディにあたるヴァージルとギレスピーは、人種という越えがたい壁で遮断された、天敵と呼んでも差し支えないほどの近親憎悪的に相容れない二人だ。ずばり、犯罪ものとしては地味な本作を、ラストまで決して途切れることなく牽引するものこそ、この二人が徹底していがみ合うテンションなのだ。

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 リベラルな刑事を演ずるシドニー・ポワチエが俄然として素晴らしいのは勿論だが、田舎の横柄な警官の、あるある感を実にリアルに描出したロッド・スタイガーの存在感が実に見事。そのキャリアを通じて黒人系俳優のメンターであり続けたシドニー・ポワチエが輝いて見えるのも、ひとえにこのロッド・スタイガーの名演あってこそ。

 名シーンは数あれど、特に素晴らしいのが、ヴァージルが物的証拠から、殺害現場が第一発見時の路上ではなく、町はずれの空き地であることを立証してみせた後、ギレスピーがヴァージルを自宅に招いて、一緒に酒を飲んでいる途中、ギレスピーが思わず独り身の寂しさを吐露してしまった後、急に憐れみなんか欲しくないと元の敵愾心を剥き出しにしてしまうロッド・スタイガーのセンシビティ溢れる絶品の演技。

 冒頭の殺人事件の真相をめぐり、二転三転する事件の捜査に対するヴァージルのプロフェッショナルな姿勢に、遂に感服したギレスピーが、最後の駅での別れの際、あくまでも不器用に、それでも心の底からヴァージルに、「元気でな」と声をかけるシーンは、何度見てもズンと胸に応えるものがある。この映画史にも残る名シーンは、プロフェッショナリズムというものが人種の壁を越えてみせた瞬間と言える。

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 エンターティメントと鋭い切れ味の社会性、その二つのバランスを巧みに操り黄金の70年代を築き上げたアメリカ映画の息吹が1967年製作の本作には確かに感じられる。

 映画は、名優が作るもの、改めてそう感じさせくれる傑作ですよね~