負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のどこをとってもマックィーン!何はなくともマックィーン!かくしてマックィーンはレジェンドになった「ブリット」

カッコイイ男の永遠のエンブレム、ステーィブ・マックィーンの豪華なるカタログ映画。そのページをめくっているだけでただ楽しい痛快作!

(評価 82点)

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ン十年見ているのに未だにストーリーが分からない謎の作品。それでも構わない、マックィーンがそこにいるだけでただ楽しい!

 今更、何をかいわんやの、ステーィブ・マックィーンの代表作、そして、ン十年にわたって何度も見続けているのに未だにストーリーがよく分からない不思議な作品でもある。

 まずはイントロのスタイリッシュとしかいいようがないビジュアルと、シックスティーズ、セブンティーズテイスト炸裂のラロ・シフリンの音楽が実にイカすタイトルバックが堪らない。

 冒頭、半分徹夜明けで、自宅で仮眠中、たたき起こされたブリット(マックィーン)の寝起きのリアクションが可愛い。とにかくマックィーンという人は、ほんのちょっとした仕草や立ち居振る舞いにカリスマ的な魅力がある。だからそんなマックィーンが、ただ走る、そして高所からちょっと飛び降りるといった、そんな何気ないアクションをしてくれるだけでもインパクトがあるのだ。当時、まだ三十代だったマックィーンの男の色気がもっとも濃厚に発散されているのが本作だといっていい。

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 そんなブリットが上院議員のチャルマース(ロバート・ヴォーン)から依頼されたのが、マフィアが絡む事件の証人の保護。ところが、その証人が護衛もろとも襲撃され、瀕死状態で病院に収監された後、病院に忍び込んだ殺し屋に殺される。

 本作がハリウッドデビューとなる英国人監督ピータ・イェーツのスピーディな演出がとにかく鮮やか。随所に鋭い切れ味のカットを交え、実にきびきびとしたテンポが心地よい。マックィーンがそれに応えるように、病院内での殺し屋とのチェイスシーンをはじめ、切れ味の良いパフォーマンスを随所に見せてくれるのが嬉しい。70年代と言えば、警察ものでもその象徴がはみ出し刑事だが、そのまさに走りとなるブリットがここから本領を発揮する。

 病院で殺された証人の犯人を挙げるため、ブリットが仕組むのがいわば泳がせ捜査。死んだ証人を独断でその死亡を隠匿し、あえて生きている患者として他の病院に搬送させる。病院に駆け付けたチャルマースは、証人が移送されていることを知り、ブリットを問い詰め、一気に二人の確執が高まることに。チャルマースはブリットの上司の刑事部長にも圧力をかけ、ブリットは孤立無援の戦いを強いられる。何とも70年代の幕開けを予兆するかのようなビート感溢れる展開がお約束とはいえ、これをタートルネックでバッチリ決めたマックィーンのビジュアルで決めてくれるのが嬉しいところなのだ。

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 そしてお待ちかね、本作が永遠に映画史の一本として刻まれるそのエビデンスとなったあの伝説のカーチェイスがやってくる。尾行されていることを察知したブリットが、ダッジチャージャーに乗った相手を、逆に追撃するシーン。マックィーンが乗るのは名車マスタングGT390。

 マスタングダッジチャージャーがまるで生き物のようにスクリーン狭しと躍動するこのシーン、半世紀が過ぎた今見てもスゴイ。何度見てもスゴイ。サンフランシスコ市内を疾走する二台の車、その内部から前方を捉え、何度も急な坂をバウンドしながら進むショットには、まるでジェットコースターに乗っているようなライド感がある。本作一本でカーチェイスの職人監督ともいわれるようになった、これもイェーツの演出と、優秀な編集の賜物だろうか、実際は、スタントの手を借りたそうだが、本編を見る限り、どのカットもすべてマックィーン本人が運転しているように見える驚異のショットの数々。市内を抜け、丘陵地帯の道路で、疾走する二台の車の壮絶なチェイスも見応え十分、フレーム映えするマックィーンのマスタングがとにかくカッコいいのだ。やがて、激しいクラッシュの後、ダッジチャージャーは爆発炎上、大破したマスタングの中でそれを見つめるマックィーンがまたしてもカッコ良い。

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 本作はいうなればマックィーンのカタログ映画、自ら立ち上げたソーラープロで製作し、自分がフレームにどう収まればカッコ良く見えるか心得ている。撮影を手掛けたウィリアム・フレイカーもまた然り、どのショットもまるでその呼吸を察したかのようにもっともカッコ良く見えるフレームにマックィーンを捉えている。

 やがて、冒頭のタイトル部でマフィアの証人を襲撃していた一味の一人を割り出したマックィーン。最後に追い詰めるのは夜の空港。逃げる相手を、飛行機のタラップから飛び降り、行き交う飛行機を交わしながら滑走路を走って追うマックィーン。コンコースで、群衆に紛れ逃げる犯人を仕留めるブリットが銃を構えるシーンの痺れるほどのカッコ良さ。昔、数々のチラシやポスターのマックィーンの顔を見ては胸をときめかせていた、映画小僧に戻ったような感覚を味合わせてくれるのが本作といえるだろう。

 かくして、直後に幕開けする、70年代アメリカ映画黄金期に見事に先鞭をつけた本作だが、エンディングに至っても、黒幕であるはずのチャルマースが結局、何がしたかったのか良く分からないまま幕を閉じる。敢えて、勧善懲悪的にスッキリと終わらないのもどこか来たる70年代の到来をも思わせるといえば言い過ぎか。つまるところストーリー自体は何がどうなって何がしたいのか未だに釈然としないわけだけど、このモヤモヤ感をどなたか解消してくれないものでしょうかね~