負け犬的映画偏愛録

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負け犬のケダモノと悪魔の挽歌「復讐するは我にあり」

匂い立つほどのケダモノが放つ悪魔の臭い、そして悪魔が放つケダモノの臭いを描き切った、ネオ実録映画の屈指の傑作

(評価 84点)

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映画を見ている間中、むせかえるほどの湿った日本の土着の匂い、そして一人の殺人鬼が放つ凶暴な臭いに圧倒される日本映画の歴史的傑作!

 実は本作、過去に二度見たが、いずれも途中で耐えられなくなってリタイアしている。そして、今回、数十年越しに、フルマラソンの完走ではないけれど、ようやく、フィニッシュを果たし留飲を下げた。

 リタイアの理由は、いずれも、本作から投射される、あまりにウェットな凶悪な臭いに耐えられなくなったからだ。そんな本作は、1960年代に5人を殺害し死刑となった、実際の西口彰事件を題材にした佐木隆三のネオ・ノンフィクション「復讐するは我にあり」の映画化であり、巨匠、今村昌平の畢生の代表作である。

 主人公の名が西口彰から榎津巌に改名されたその主人公を演ずるのが日本映画を代表する名優、緒形拳。映画は、最初の殺人を犯してから、5人を殺害し、逮捕されるまでの榎津の、約1ケ月半に及ぶ逃亡の軌跡を描いていく。

 とにかく圧倒されるのが、緒方が放つ、強烈きわまりないバイタリティ。しかし、それは、善のベクトルに向かうものでは勿論なく、とんでもなく凶暴なバイタリティなわけだが、実在の西口彰をそっくり踏襲した緒方の、一見、きわめて人なつこいルックスのおかげで、その凶悪さが、比類のないほど増幅するのだ。

 おまけに、今村昌平といえば、そのカラーは、いうまでもなく、どこまでもウェットな土着の匂い。そして、欠かせないのがその土着に根差した男と女の情欲だ。本作でも、のっけから、ふんだんに登場する情欲シーンは、もはやセックスというより動物や昆虫の交尾すら思わせる。

 冒頭で、榎津は専売公社の同僚を殺害する。鈍器、そして刃物で、執拗に殴り、メッタ突きにする、その容赦ない残虐さに、まず戦慄させられる。ここから榎津の逃避行が始まるが、本作でも特にキー・ファクターとしてクローズアップしているのが、実在の西口がそうであったように、榎津がクリスチャンの家庭に育ち、自らもクリスチャンであったこと。それ故、榎津が犯す悪魔的な所業の凶悪さが、一層、際立つ仕組みになっている。

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 更に、ひときわ今村昌平らしさが増すのが、榎津が若い頃に犯した詐欺事件の際、たまたま知り合い深い関係になったことで、結婚に至った妻の加津子(倍賞美津子)との関係だ。加津子は、犯罪を繰り返す夫の巌への後ろめたい気持ちもあって、親子の業を一身に背負い苦行に耐えているかのような生粋のクリスチャンの巌の父親の鎮雄(三国連太郎)に、義理の親子の一線を越える憧憬を抱く。

 加津子自ら露天風呂に入る鎮雄に裸身を晒す、禁断の関係を描くシーンが実に強烈だ。ここで全裸になる、浅黒い肌の倍賞美津子の実にエロいこと。そして、そのたわわな乳房を鎮雄が背後から揉みしだくシーンには、こちらまで全身悩殺されるようなインパクトがある。

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 しかし、巌は、この鎮雄と加津子との関係を察知し、詐欺事件の刑期を終えて出てきた時、激しく問い詰め詰る。いわば、この軋轢が、巌の殺人行脚の発火点になる。

 本作で執拗に描かれるのは、この実の父、鎮雄に対する地獄の業火のような憎悪なのだ。二人を殺した皮切りに、弁護士、深い関係になった旅館の女将、その女将の実の母親と次々と手をかけていく巌が加速度的に悪魔に変容していく、そのエンジンのような動力源ともなったのがこの憎悪だった。

 しかし、本作における巌のケダモノぶりは凄まじい。多分、過去に見た時にリタイアしたのも、三人目の弁護士殺害の顛末あたりだったと思う。決して、グロテスクな直接的な描写があるわけではない。しかし、殺した死体を押し入れに据え置いたまま、平然としているそのあまりの畜生ぶりに、その時は耐えられなくなった。しかし、言い換えれば、これはひとえに緒形拳の演技の賜物である。

 実際、実在した西口とまるで一体化したかのような本作における緒形拳の演技はもはや神がかっている。人懐こく笑い、いとも容易く他人に近付いては容赦なく殺す。逃避行の道行で、巌が唯一、シンパシーを交わす人間と言えるのが、殺人罪で15年の刑に服したことがある、旅館の女将の母親ひさ乃(清川虹子)。ここで、誰もが巌は、ひさ乃だけは殺すはずはないと思う。しかし、そんな人間的な感情を踏み潰すかのように、深い関係にあった女将のハル(小川由美子)もろとも平然と殺す。そして、その遺体を傍にしながら、旅館の資産をまるごと質屋に売り飛ばそうとしている最中に、あっけなく捕まる。

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 ラスト、刑務所で対峙した鎮雄にクリスチャン破門を告げられた巌は、ゲラゲラと笑うが、その笑いはまさに悪魔と化したケダモノの笑いだ。

 長尺の2時間20分。しかし、本作は、開巻から、熱い熱気とむせかえるような湿気、そこに男と女の体液の臭気まで加わって最後まで見るものを圧倒する。今回、やっと見終えた本作だが、以降、このエキセントリックなパワーがきっと病みつきになることでしょう。

 それにしても、本作の倍賞美津子の肉体のエロいこと。これだけでも、何度も鑑賞する価値があるお宝映像なのは確かですよ~