負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の映画史上初!驚天動地のセックスシーン「ボーダー 二つの世界」

オスとメス、ヒトとケダモノ、その危うい境界線が消失する、驚愕の北欧ミステリー!

(評価 74点) 

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誰も見たことがないセックスシーンが繰り広げられる、北欧スウェーデンから到来したミステリー・ホラーの傑作。

 この世の中には、何らかの物事を隔てる境界線というものが必ず存在する。この映画は、そんな境界線が目の前でたちまち消失する瞬間を体験させてくれるミステリー・ホラーだ。

 世にも醜い容姿で生まれついたティーナは税関職員として働いている。まずは、このティーナのルックスに誰もが驚くはず。絶妙な特殊メイクで作り上げられたのは、実にリアリスティックな醜さ。一見、目すら背けたくなるほどなのに、何処にでもいそうな存在感を兼ね備えたこのルックスに誰もが釘付けになるはず。しかし、ティーナが異質なのはこのルックスだけではない。ティーナは、その特殊な臭覚で、人間の羞恥やかすかな怯えを嗅ぎ取ってしまう能力を持っている。その能力を駆使して、違法な密輸行為の摘発を行っているという設定がユニークなところ。

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 だが、ティーナは常に自らの醜い容姿に対するコンプレックスに苛まれている。老人ホームにいる父親を慰問に行き、既にかすかな認知症に侵され始めている父親に、自らの少女時代のことを聞くが、はっきりとは言わず、自分自身も自らの過去については、釈然としない記憶しか持ち合わせていない。さらに、ティーナには、全く生活能力のないヒモのような男の同居人がいて、耐えきれない孤独感を、まったく愛情関係のないこの男と、ひとまず同居することだけで癒やしている毎日なのだ。

 だが、そんなティーナの前に一人の男が現れる。各地を旅して歩いているというこの男の名前はヴォーレ。そして、このヴォーレは、まるで巡り合わせた運命のように、ティーナと同じく世にも醜い容姿をしていた。

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 まるで運命の赤い糸で惹かれあうかのようになる二人。ここまで見ると誰もがこの映画は、とてつもなく醜い男と女のドン底で究極のラブストーリーなのかと誰もが思うはず。しかし、本作でお話しすることが出来るのは、実はここまでだけなのだ。この後、本作は、誰もが予想もしない方向へと進んでいく。

 そして、何と言っても驚くのは、中盤に描かれるこの二人のセックスシーン。この負け犬は後にも先にもこんなセックスシーンをこの映画以外で見たことがない。かくして、ティーナはヴォーレと森の中で交わって、その人生を通じて抑圧されていた自己から初めて解放される。

 だが、冒頭に描かれるティーナが摘発した児童ポルノの組織とヴォーレに関りがあることを知ったティーナは、真相を知るためさらにヴォーレに近づくが、そこで知ったのは更に驚愕の事実だった。

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 本作で、中盤以降展開される世界は、グロテスクそのものの世界。しかし、決してそれだけではない。ラストには、パズルの最後のピースがピタリとはまるように物語の全体像が明確に浮かび上がる精緻な構造になっている。それも原作者のスウェーデンの作家ヨン・アンヴィデ・リンドクヴィストの卓抜な手腕によるところが大きい。

 最近、北欧アイスランドの警察小説「湿地」を読んで、北欧ならではのウェットで静謐なその世界観に酔わされた。本作はどこかその小説と相通ずるものがある。実際、本作の重要なキー・ファクターとなるのも北欧の伝承にまつわるとあるクリーチャーなのだ。

 どこかに必ず存在する境界線のボーダー・ライン。そのボーダーを超える瞬間は、誰にでも思わぬ瞬間にやって来る。週末、フラリと立ち寄ったTSUTAYAの棚に本作のDVDを見つけ、ふと手にしたその時が、ひょっとしたらあなたのそのターニングポイントになるかもしれない。